本当においしいオリーブオイル

患者から「油でオススメはありますか?」と聞かれることがある。
そう聞かれれば、「ココナッツオイルがいいですよ」と答える。酸化しにくくいから、体に害がない。というか、飽和脂肪酸を補うのにこれ以上の食材はない。ただ、25℃以下で固体になるから、夏はいいけど、これからの時期は使いにくい。あと、未精製のものだと甘い風味が残ってるから、料理によっては合わないだろうね。
「うちはオリーブオイルを使ってるんだけど、どうですか?」
オリーブオイルはピンキリだから、できるだけいい商品を使おう。必ずしも値段と品質が比例しているわけではないけど、少なくとも、大手が販売してる妙に安いオリーブオイルは警戒したほうがいい。
あと、オリーブオイルの賞味期限、知っていますか?半年?1年?2年?違います。答えは、7日です。
僕の知り合いに、イタリアやトルコのオリーブオイル農家に買い付けに行く中村裕美さんという人がいます。中村さんは、オリーブオイルに関する著書が複数あり、テレビや雑誌などのメディア出演も多い。国際オリーブオイルコンテストの審査員を務めていて、オリーブオイルのプロと呼んで差し支えない。
5年ほど前、まだコロナ真っ最中の頃、我が家が主催したバーベキューパーティーに小野さんの紹介で来られて、そのとき初めてお会いした。そのとき、中村さんから、こんな話を聞いた覚えがある。
「現地の農家さんが家で料理をするとき、庭に生えたオリーブの木から実を摘んできて、その場でゴリゴリ絞って、オリーブオイルを作る。その爽やかさとほろ苦さ。これに勝るオイルはありません。そんなふうに作ったオイルがどれだけ持つのかというと、せいぜい7日です。
驚かれますか?でもこの感覚は、かつての日本人にもあったはずです。たとえば、家でお茶を入れる。沸かせて、茶葉を入れて、煮だして、急須にそそぐ。入れたてが一番おいしい。入れてから1週間放置したお茶、飲めますか?
1990年日本で初めてお茶がペットボトル詰めで売られるようになりました。しかしこの新商品を見て、他社は「こんなもん売れるわけがない」と思っていた。当時は、お茶といえば、各家庭で沸かすものであり、タダのように安いものであり、どこぞの誰かが工場で沸かせたものをわざわざ金を出して買うわけがない、とライバルメーカーは見ていた。
ところがどっこい、今や清涼飲料水の売り上げのなかで、茶系飲料が占める割合は25%で、品目別ではトップシェアを誇る(ミネラルウォーターが18%、炭酸飲料が17%、コーヒー飲料が14%と続く)。
つまり、この30年で日本人の常識が変わったんです。お茶は、家で入れるものから、コンビニで買うものになった。その感覚で、農家さんが「オリーブオイルの賞味期限は7日」というのを聞けば、驚かれるかもしれませんが、でも言ってることは、ごくまともです」

先日、中村さんに数年ぶりにお会いしたとき、「オリーブオイルの賞味期限は7日」説は、自分の中ですごく印象に残っているという話をすると、中村さん、「いえ、それは誤解です」という。「全くの間違いというわけではありませんが、もうちょっと注釈がいります」
5年前に聞いた話が、僕の中で独自の発酵をしたせいで、オリジナルの話からずいぶんズレてしまったようだ。
今、改めて、中村さんの話を聞いてみよう。

「もうすぐ10月で、オリーブオイルを絞る季節になりますが、荒しぼりの状態、実をフィルターできれいに取り除いてないなら、先生の言う通りです。1週間以内じゃないとおいしくない。農家さんが自分の家で絞ったのを、料理にそのまま使う。そういう状況であれば、すぐに使い切るのが当然で、長く保存するものじゃない。
でもきれいにフィルターすれば、1年とか、もっと保存がききますよ。
濾過が不十分なら、実のカスがオリになってボトルの底に沈殿して、それがオイル全体の酸化を進める。1か月もすればひどい状態になるでしょう。
おいしいのはどちら、ということになれば、荒しぼりです。果肉が入っていて、そのほうがオリーブ本来の風味を楽しめます。でもその状態で250 mlとかの量だと、日本の食卓では使い切れない。荒しぼりを100 mlで本数限定の特別販売、それはうちでもやっています。ライブをして、欲しい人に販売する。希望者には翌日すぐ発送します。
5年前、バーベキューパーティのお土産として「1週間以内に使って」ということでお渡ししました。それで先生のなかで、賞味期限は1週間、という認識になったんだと思います。あれは非売品です。

国産のオリーブオイルだからいい、みたいなのは日本人の思い込みです。あまり大っぴらには言いにくいけど、日本では海外で規制されてる農薬が使われていて、オリーブも同じです。日本産のオリーブオイルを受け入れない外国もあります。検査すれば、あり得ない濃度の農薬が検出されるので。
無農薬の農家さんも確かにいます。でも生産数が少ないので、彼らの生計が成り立たない。それで、海外産のと混ぜて販売したりする。ボトリングした場所が生産地ということになるので、実質スペイン産だけど、国内の何ちゃら農園で瓶詰してるからという理由で、国産として売られている。ラベルを目を凝らしてみれば、それは書いてあるのだけど、パッと見ただけでは国産だと思ってしまう。
かといって、海外産が安全かというと、そうでもない。農薬使ってる農家もたくさんあるし、それに、無農薬なら安全というわけでもない。
世話をせずに放置して、結果的に無農薬になったようなオリーブと、適切に手をいれて無農薬で作ったオリーブでは、やはり質が違う。たとえば、放置しただけの無農薬だと、実の中にハエが卵を産み付けていることがあって、これだと味がダメになってしまう。
私は実際に現場に行って、見ているので、どういうふうに作られたのか、分かります。「この農家さんは畑を放置してるだけなんだな」とか「いい手入れをしているな」とか、当然分かります。

個別の商品について、すべての良し悪しが分かるわけではありません。「この商品、○○産のオーガニックですが、どうですか」とか「この商品で4千円、高いですか、安いですか」とか。有機無農薬だからいいとは限らない。実際にテイスティングしないと分からない。
一般に、質のいいオリーブは若摘みです。まだ青い状態のを摘んで、油を作る。若いので、実の中に苦味、辛味がある。この苦味、辛味の正体はポリフェノールです。逆にいうと、苦味や辛味が一切ないオイルは、酸化してるか、何か操作してる可能性がある。
苦味、辛味を完全に抜いて、無味無臭に近いのはピュアオイルで、ほとんどサラダ油と変わらない。それにバージンオイルを数%混ぜたオイルって、料理人には使いやすい。でも家庭用ならそんな無味無臭じゃなくていい。安いから揚げ物に使うのはありだと思うけど、それならサラダ油で十分だと思う。
苦味、辛味が強いと、日本人には食べづらい。地産地消というのは本当で、ヨーロッパの野菜というのはエグみが強くて、そんな野菜には風味の強いオリーブオイルがよく合う。でも日本の野菜は味が薄くて、エグみも少ないので、ヨーロッパの本気のオリーブオイルを使うと味が負けて、野菜がおいしくない。
体にいいという、健康の観点だけで見れば、苦味、辛味満載のオリーブオイルは、ポリフェノール満載という意味でもあるので、体にはいいですよ。でも普段の料理には、使いにくい。みんな、おいしい料理が食べたいのであって、料理に健康だけを求めているわけではないから。
だから私は、外国に買い付けにいくときには、苦味、辛味がむしろ中途半端、青みも中途半端、でも質が高いのをあえて選んでいます。
向こうのテイスターさんが、「こんな、苦味も辛味も大したことないオイル、日本で売れるのか」と言われるけど、こういうのじゃないと日本で受け入れられません。
風味が強いと、みなさんどう使っていいかわからない。でも強い風味に慣れてきて、「これがオリーブオイルの魅力なのか」というのが分かってくると、好きになる。たとえば小野さんは、うちの商品ラインナップのなかで、一番辛味の強いのが好きです。でも一般の人には、ほどよい苦味、辛味のが食べやすい。
生産者は、苦味、辛味の強いものを目指します。プロはそこを評価するので。でもそこを追究したオイルは、合う料理の幅が狭くなる。それで、商品を作るときには、搾油機械で苦味をコントロールして、ちょうどいい風味に調整する。収穫したポリフェノールが100だとすると、ほどほどの苦味、辛味を残して、ポリフェノールを60ぐらいにして、多くの人に受け入れられやすい風味にする。
ポイントは、収穫された実の品質(収穫のタイミングも含め)、搾油機械の調整、この二つです。たとえば、もう一雨降ってくれれば、味のバランスが整うとなれば、雨降りを待つこともある。今すぐがベストだとなれば、いきなり収穫を始めることもある。一流の農家は、そんなふうに畑の管理を怠りません。

10月にトルコに行きます。イタリアはこの時期はまだ暑すぎるので、秋も遅いので、もう少し後で行きます。農家の仕事ぶりを見たり、今年の作付の状況、搾りたての味見をしたり、今年のおおよその味、フィルター掛けの味を見ます。そういうのも大事だけど、もっと大事なのは、今農家が何に困ってて、どういう調整をしているのか聞くことです。
そういう近況を踏まえて、テイスティングして、私から農家に助言をします。彼らは生産のプロだけど、テイスティングのプロではないので、味がさらにおいしくなって、彼らもうれしい。私も、おいしいオイルを日本の皆さんに届けられるので、うれしい。そんなふうに我々の仕事はお互いに支え合っています。
日本の大手商社のバイヤーが買い付けに来ることがあるけど、そんなコミュニケーションは全然していません。彼らが注目しているのは、値段だけ。2,3時間の商談で、それなりの品質のものを、どこまで値切れるか。そこしか考えてない。そんなバイヤー相手に、農家さんがいい商品を売ってあげようと思うと思いますか。一番粗悪な、三級品をつかまされて終わりですよ。農家さんだって人間です。自分たちを搾取しようとするバイヤーには、それなりの対応しかしてくれません。

オリーブオイルの世界では、「ブレンド」が普通に行われます。農家は複数の品種を育てていて、辛味が強い品種、青みが強い品種など、それらを適切な割合で混ぜて、ベストなオイルを調合する。ときにはレモンやオレンジを混ぜることもある。
10年ほど前、初めてブレンドの場に立ち会った。最初は、農家さんも半ば冗談のつもりで私に聞いたと思う。でも私が、これとこれを、これぐらいの割合で、と助言して、実際その通りにすると、味が明らかにおいしくなった。「よし、今年はこれで行こう」となって、その商品がコンクールで世界一になった。それ以降、彼らは私を絶対的に信用してくれるようになった。
私がすごいんじゃありません。まず、彼らの努力があった。良質でおいしいオイルを作ろうとする日々の努力があって、そこに、最後のピースとして、私の助言がはまった。そして、彼らには私の助言を受け入れるだけの心の広さがあった。私は、タイミングと幸運に恵まれたと思う。
世界一になったことで、私も現地メディアから取材されて、テレビでも報道された。オリーブオイル界隈というのは狭い世界だから、私は界隈で多少の知名度を得ました。そのおかげで、世界で仕事がしやすくなったのはありがたいことです。

彼らは、私が日本から来るのを待っています。原材料の状態、A1とかF3とか番号だけ貼った少量のオイルを、片っ端からテイスティングして、ブレンドの配合をアドバイスします。彼らはすごいメモを取ります。
農家に2,3日は滞在します。一緒に畑に行って、工場に行って、真っ黒に日焼けします。合間あいまに、どうでもいい話でコミュニケーションして、彼らの思いとか、悩みとか、家で牛を飼ってるとか、いろいろ聞きます。「農家さん」という一般名称ではなくて、彼らの顔と名前と性格が、私の中にしっかり入ってくる。仲が良くなると、搾りたての牛乳をくれたり、チーズをくれたり、そういうのを通じて、私の感覚も磨かれる。全然無駄な時間ではないです。いいオリーブオイルを作りたいという、共通の目標を通じて、彼らも私も、一緒に成長しています」

【告知】

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https://newuleao1018.peatix.com/

10月18日、「水の真実」をテーマに三宮で講演会をします。
小野さんが新たな浄水器「ウルオクール」を販売するので、その実演も行います。濾過するだけで水の味が変わります。この変化を知ってしまえば、もはや水道水は飲めないでしょう。
参加費は2千円ですが、講演に来られて浄水器を買う人は2千円割引なので、買うと決めてる人にとっては、実質参加費は無料ということになります。
興味のある方はご参加ください。
https://newuleao1018.peatix.com

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11月8日、オリーブオイルマイスターの中村裕美さん、小野さんとともに、三宮で講演会を行います。水のプロと油のプロが一堂に会するわけですが、お互いが「水と油」の関係にならぬよう、僕が乳化剤の役割を果たします(笑)
興味のある方はご参加ください。
会場参加 https://1108oil.peatix.com
オンライン参加 https://online1108oil.peatix.com

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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