「精神病は自己免疫疾患である」

2026年6月10日、娘(Aさん。34歳)を心配する母親が、こんな話をする。
「娘は去年の6月16日に会社で倒れました。ちょうど1年になります。
それ以来、娘を実家で見ていますが、私も正直、疲れてきました。まったく回復の兆しが見えないので。
大事に育ててきたつもりです。食品添加物は避けて、薬は飲ませず、ワクチンも打たせない。1歳6か月まで母乳を飲ませ、愛情かけて育てました。
ずっと成績優秀で、誰もが知る最高学府に合格、入学し、卒業後は某商社に就職しました。その後10年以上にわたり、高層ビルの37階にあるオフィスで、毎日ストレスに負けず、頑張って働いていました。
それが去年6月、仕事中に倒れた。てんかん発作のように、突然に。
病院で検査しても特に異常はなく、「過労」と診断され、その後、会社から残業を免除されました。
しかし8月28日、帰りの電車内でまた倒れて、他の乗客がすぐに救急車を呼んでくれて、次の駅で降りた。意識が戻った娘は、救急車を拒否して、ベンチでしばらく休んでから、自宅まで歩いて戻った。
翌日、また電車で倒れた。
そんなことがあり、結局仕事はやめました。本人は続けたかったけど、はたから客観的に見て、働ける状況ではなかった。
一人暮らしをやめて、私たち夫婦の住む実家に戻って来たけれど、あるとき、娘が父親の体にうなだれかかるように倒れた。目の前で意識を失う様子を見て、「もうこれは一人暮らしは無理だな」と思いました。

妙なことに、本人は現状をまったく認めません。いまだに「自分は元気だ、問題なく働ける」という。確かに、意識を失う発作で、その間の記憶はないので、理屈の上ではそういう主張はできるだろうけど、でも、私たち家族とか病院の医者から、自分の身に何が起こったのか、説明は受けている。それなのに、自分が病気であることを頑なに否定する。不思議です。この子は、こんな子じゃなかった。もっと柔軟で、強い子でした。自分の弱さを認めるだけの強さがあった。でも今は、性格が変わってしまったような、「心ここにあらず」という印象を受けます。

仕事を辞めて、家に戻って来て、すっかり無気力です。毎日昼11時頃に起きてきて、何をするでもなく、ぼんやりとしている。
私は、人生に対してもっと前向きになって欲しかった。「まずはゆっくり休んでね。仕事のことはその後でいいから。でも、自分の体に何が起こったのか、知りたいと思わない?意識をなくす発作が何度も起こった。そのせいで、仕事ができなくなった。原因を見つけて、治療して、それから仕事のことを考えればいい」
そういうことを言っても、自分が病気であることを絶対に認めない。いつ倒れたとか、私は細かく記録しているけど、そういうのは一切無視。はっきり言われました。「聞きたくない」と。
病院では、「意識消失発作が2回以上あれば、てんかんです」と言われましたが、本人は認めない。薬が処方されても飲まない。この点については、私もホッとしました。小さい頃から薬を飲ませず育ててきた我が子です。私も薬を飲ませたくなかったので。

初めて倒れてから1年、家で見ていますが、症状は徐々にひどくなっています。夜にけいれんが起こり、でも意識はあって、誰かとしゃべってる。幻覚や幻聴があるみたいです。先週は4回ほどそういう状態になりました」


あえて言うまでもないことだけれども、僕は当院に来てくれた患者には、いつも全力投球、自分の持てる知識と経験をフル活用して、ベストな助言をしたいと思っているのだけれど、上記のような患者の場合、特に背筋が伸びます。というのは、薬を使っていない精神科患者だからです。
僕の医者としての出発地点は、精神科でした。精神科の薬がどれほど人間精神をむしばむか、無数の事例を目の当たりにしてきました。上記の患者が、うちではなく、別の病院を受診していたら、まず十中八九、統合失調症と診断されます。「若年者の幻覚と幻聴。統合失調症だな」と。そして、抗精神病薬を投与されることになる。いったんこの手の薬を飲み始めると、一般に症状はかえって遷延し、減薬、断薬はかなり難しくなります。そういう患者であれば、僕のほうでも自分に対して言い訳が立つ。「もう薬を飲んでるし、仕方ないよね」みたいな。
しかし上記患者Aさんは、精神症状がありながら、未投薬の状態で来院された。「なんとしても治したい」と僕も奮い立ちます。

突然の意識消失発作から始まり、それを数か月間に頻回に繰り返し、病識が乏しい。無為自閉のような意欲減退、性格変化。1年の経過のなかで、幻覚、幻聴が出現。

この経過は、明らかに一般的な統合失調症の発症経過とは違います。
意識消失発作だけにフォーカスすれば、診断は迷いなく「てんかん」でしょう。しかし一般的なてんかんは、性格変化や幻覚を伴わない。
後半の「幻覚、幻聴」にだけフォーカスすれば、診断は統合失調症になるけれど、意識消失発作を初期症状として、次第に幻覚、幻聴が出現するという経過は、普通の統合失調症ではない。

さて、どのように対応するか。
食事を含めた生活改善の助言とともに、CBDオイルを勧めた。
てんかんであれ、統合失調症であれ、CBDオイルはどちらにも効果が期待できる。朝夕、数滴ずつ飲んでみてください。
経過観察したところ。。。

2026年7月1日再診
母「動きがときどき止まります。たとえば、「服をたたんで」とか「そこ、片づけといて」とか、複数の用事を言うと、動きがぴたりと止まって、固まる。そういう静止が、だいたい毎日あります。
6月25日からけいれんというか、引きつけがあります。おとついは深夜4時、きのうは朝5時に引きつけがあって、そのとき歯ぎしりをして、歯が欠けました。歯が欠けるのは5回目のことで、いつもは予防にマウスピースをしていますが、きのうはしていなかった。
病気を認めるのを、明らかに嫌がっています。でも引きつけを起こして歯が欠けると、その欠けた歯が引きつけの証拠なので、認めざるを得ない。それが不快であり、恐れているようにも見えます。
愛情深く育てたつもりですが、甘やかし過ぎたのでしょうか。この子は末っ子で、あまり厳しいことも言わなかった。「勉強だけしてればいい」みたいな感じは正直ありました。
病気を認めざるを得なくなって、この子がふと、「もっと早くにここに来ればよかった」と言います。後悔で頭がいっぱいのようです。後悔で眠れず、寝ても嫌な夢を見て、布団の上でもがいている。何か頭のなかで声が聞こえて、うまく寝付けない。そんな様子を見ていると、何か変な霊に憑りつかれているような印象もあります」


僕はあせりました。症状は全然よくなっていない。それどころか、緊張症(カタトニア)のような、新たな症状が出現した。
あえてポジティブに解釈すれば、これを症状が「動いた」と見ることもできる。この1年、特に大きな変化なく、徐々に悪化傾向にあったところ、CBDオイルの服用開始後、まもなく別の症状が出現した。「ある種の好転反応であり、これは乗り越えるべき『壁』です。もう1か月様子を見ましょう」という方針も、ないわけではない。
しかし今回の場合、そんな悠長なことは言っていられない。何としても、別の手を打たねばならない。
僕は基本的には、サプリの数は少なければ少ないほどいいと思っている。何が効いたのか、効果が見えやすいし、患者の負担感(錠数が多い心理的負担、サプリ代の金銭的負担)も少ない。
しかし今は、まずは症状の軽減が求められている。何が効いたのか分からなくてもいい。とにかく、まず治す。考察とかサプリの選別はその後でいい。

テアニン、プレグネノロン、ナイアシン、メチルガード、ベンフォチアミン、アサイGe+プラズマローゲン、アシュワガンダ、トレオン酸Mg
これらのサプリについて、用量と用法を指示した。

サプリの服用を指示する一方、僕はAさんの母親の話を聞きながら、以前に読んだ海外の症例を思い出していた。

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高校時代は文武両道、勉学とスポーツに打ち込み、卒業式では総代を務めるほど優秀だった女性が、大学時代に重度の統合失調症と診断され、精神病院に入院した。異常行動や奇妙な体勢のまま動きが止まる緊張病(カタトニア)があり、日常生活にも介護が必要になった。
様々な抗精神病薬の投与、電気ショック療法などを受けるも、症状の改善なく20年が経過した。
ある意欲的な医師が、何とかこの女性を救おうとして、世界中から70人以上の専門家からなるチームを組織し、女性の体内で何が起こっているか、徹底的な調査を行ったところ、この女性は精神病というよりは、自己免疫疾患だと判明した。症状の本態は、SLE(全身性エリテマトーデス)であり、かつ、その症状が外部(蝶形紅斑とか)に現れない特殊なタイプだとチームは考えた。そこで、自己免疫疾患に対する治療を行ったところ、女性は劇的に改善した。

同様の事例は他にも複数あって、

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新進気鋭の女性ジャーナリストが、ある日突然、被害妄想、頭痛、幻覚、幻聴、緊張病を起こすようになった。統合失調症の診断で、投薬治療を受けるが改善しない。それどころか、言葉を失い、寝たきり状態になった。
治療チームが組織され、病態を徹底的に調べたところ、自己免疫疾患である抗NMDA受容体脳炎だと分かった。
やはり、免疫系に対する治療(ステロイドパルス療法、血液浄化療法、免疫グロブリン療法)を行ったところ、劇的に改善し、女性は社会復帰した。

別の研究で、「統合失調症と診断されている患者のうち、少なくとも10%は、自己免疫疾患(抗NMDA受容体脳炎)」との指摘もある。

そこで僕は、Aさんも、統合失調症というよりは自己免疫疾患ではないかと考えた。そして、自己免疫疾患にフォーカスした治療を行いたいと思った。
ただ、僕の基本スタンスとして、ステロイドパルス療法とか免疫グロブリン大量静注はできれば避けたい。この期に及んでも、薬はあまり使いたくないのです。血液浄化療法なら、血液を機械で濾過して抗体を除去するだけなので、体に妙な薬剤は入らない。そこで、僕の知り合いで、血液浄化療法を積極的にやっているK先生に連絡をとり、万一の場合、Aさんの治療を行ってくれるよう同意をとった。
血液浄化療法のプロトコルとして、「1回あたり推定血漿量の1.0~1.5倍を交換し、隔日に計5~7回を1クールとして行う」というのがあって、Aさんのお母さんにもその旨を説明した。
「次回来院時に改善がない場合、血液浄化療法を考えています。ただ、自費治療なので、料金は70万円ほどかかります」。高額に違いない。僕としてもこういう治療を勧めるのは心苦しい。しかし、娘の人生がかかっている。お母さんも「それでよくなるのなら」と同意された。

2026年7月10日再診
Aさんはすっかりよくなっていた。「こんなに笑う人だったのか」と驚いた。
Aさんが語る「すごくいい感じです。食事もおいしいし、よく眠れます。日中は家事を手伝ったり、本を読んだりして過ごしています」
お母さん「最初はサプリを飲むことに抵抗していたけど、飲んだ翌日から変わりました。「また神戸に行こうね」っていうと、「うん!いいホテルに泊まりたい」って。こんな快活な会話は久しぶりで、家族みんな驚きました。
毎日サプリを飲んで、ナイアシンのホットフラッシュが出ても「ほら、ここが赤くなってる!」とか、楽しみながら服用しました。
近所にグルテンフリーのカフェがあって、そこでお茶を楽しんだり、スマホの検索をして自分の興味のあることを調べたり。
きのうなんて、朝8時半に自分から起きました。「お父さんが今日は出張だから、いってらっしゃいって言いたくて」って。
表情がすっきりしていて、だるそうな感じがまったくない。家事も積極的に手伝ってくれる。すっかり治ったみたいです」


なんと、改善してしまった。万一の場合に備えて、血液浄化療法の算段をつけていた僕の準備は、幸いにも徒労に終わった。K先生にも「改善したので、先生のお手を煩わせる必要がなくなりました」と伝えた。

かつて「脳には免疫系がない」と言われていて、100年間それが定説だった。しかしここ20年ほどの研究で、脳内のミクログリア(微小膠細胞)が脳内免疫の重要な役割を担っていることがわかってきた。ミクログリアは、脳内組織の修復を行ったり、逆に、炎症を起こして組織を破壊したり、体内でいうところのマクロファージそのもので、何らかの要因でこの脳内マクロファージが暴走すると脳炎を引き起こす。「統合失調症、うつ病、パニック発作、アルツハイマー病など、ほとんどすべての精神疾患の背景には、ミクログリアの暴走があるのではないか」と唱える研究者もいる。
多くの種類のサプリを勧めたため、何が効いたのか特定はできないけど、勧めたサプリはすべて、抗炎症に寄与するものばかりだった。
ともかく、改善してよかった。臨床家は結果がすべて、なので。
お母さんからはすごく感謝されて、「この感謝を、どう伝えたらいいか分からなくて」と、ちょっとしたプレゼントまでいただいた。

僕としては、治療の精度をもっと高めないといけない。こんなに多種類のサプリを飲ませるのは気が引けるし、患者のほうでも負担だろう。どのサプリがどの程度の仕事をしたのか、きちんと見極めて、減らせるサプリは減らしたい。
その旨をお母さんに言うと、「いや、全然負担じゃないです。元気になったんだから。飲んで悪いものでなければ、一生だって飲み続けますよ」

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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