僕が翻訳した本『オーソモレキュラー医学入門』に、戦争中、日本軍の捕虜になった元カナダ人兵士の話が出てくる。1944年に解放されたのだけれど、捕虜の3分の1が死亡し、生き残った兵士も栄養不良で瀕死状態だった。解放されて、食事をとり、体重が戻り、一応栄養状態は改善したものの、不安症と強迫観念は治らなかった。どんな部屋でも、部屋の隅でドアに面した場所でないと座っていられなかった。
1960年ホッファーと知り合ったことでナイアシンを知り、服用を始めたところ、2週間後これらの精神症状が消えた。16年間にわたって苦しんだ戦争のトラウマが、単なるビタミンで治ったということだ。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の標準治療は、心理療法(カウンセリング)と薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬など)が二本柱で、栄養の「え」の字も出てこない。この一事だけ見ても、現代の精神医療には大きな欠落があると思う。
もうひとつ、トラウマを治すアプローチとなれば、CBDオイルがある。

エビデンス的には、ナイアシンよりもCBDオイルのほうがよく研究されている。
人生を長らく生きていると、強烈なショック体験というのは誰しも経験しているものだ。しかし、経験した全員がPTSDを発症するわけではない。「精神的にタフなんでしょ」とか「いや、タフというか鈍感なだけだろう」とか、言われるかもしれないけど、栄養状態が良好で、消化器系の炎症がなく、免疫系が適切に機能している人は、トラウマを受けにくいはずです。つまり、トラウマは心の問題というよりは、体の問題だと僕は思っています。
なお、ナイアシンもCBDオイルも、つらい記憶を消すわけではない。記憶自体は覚えている。しかし、その記憶に伴う恐怖が消えます。
ナイアシンとCBDオイル、いずれもアルコール依存症や甘いもの依存の軽減に有効であることは、以前の記事で書いたことがある。
https://note.com/nakamuraclinic/n/n3f2563c55f16
今の文脈でいえば、人が何らかの物質に病的に依存する背景には「心の傷」があって、その傷を代償しようとしてアルコールにハマるという解釈もできそうだ。ナイアシンやCBDオイルは、その心の傷を癒すことで、依存症改善のサポートになるのかもしれない。
臨床現場で長らくゲルマニウムを使ってきた。患者のなかに、ときどき不思議なことを言う人がいて、印象に残っている。僕は、ゲルマニウムにもトラウマを消す作用があるのではないかと考えている。
【症例】27歳男性
【主訴】うつ病
2020年10月8日初診
→ ゲルマニウム1000㎎/日の服用を指示。
2020年11月13日再診
「ゲルマを飲み始めてから、やたらと昔の記憶がよみがえります。たとえば、朝に目が覚めて、布団の中でぼんやりしているときに、テレビ画像のように昔の記憶が鮮明に浮かんできます。いえ、恐怖とか不安はないです。いい思い出、嫌な思い出、いろいろと出てきて、僕は淡々とその映像を見ている感じです。そうしているうちに、「自分のうつ病はトラウマから来ていたのだ」と気付きました。
僕は中学も高校も陸上部で、短距離走をしていました。タイムを0.01秒縮めるために、数えきれないほど走り込む。努力が数字にきっちり出る世界なので、僕は夢中になって毎日練習していました。市の大会で優勝し、県大会でも優勝し、ジュニアオリンピックにも出場しました。誰よりも速く走ること。それが僕の人生のすべてでした。
でも高校3年生のとき、オーバーワークがたたって、足を故障してしまった。
つらい記憶です。いや、つらいなんて言葉じゃ表現できないほど、強烈な挫折です。あまりにもつらすぎて、僕は、「もう走れない」という事実から目を背けたんだと思う。それで、挫折したこと自体を忘れようとした。
でもゲルマを飲み始めてから、このときの記憶がよみがえった。布団の中で、涙が出た。しばらく涙が出続けて、やがて気付いた。ああ、自分はあのとき、ものすごく傷ついていたのだな、と」
【症例】43歳女性
【主訴】胃腸炎、PMS(生理前後のイライラ)
2020年1月11日初診
→ ゲルマニウム400㎎/日 服用を指示。
2020年4月13日再診
「やたらと昔のことを思い出します。それも、とても嫌な記憶を。すっかり忘れていたことを、ふとしたときに、すごくリアルに思い出したり、夢に見たりします。それで一時は妙に落ち込みました。
最初、苦しかった。自分の中で抑圧してた記憶が、どんどんよみがえってきて、泣きました。20年以上前のことを思い出して。
昔、彼氏と同棲していた。好きな人で、毎日お弁当作ったり料理してあげるのが楽しくて、幸せだった。でもその彼から、ひどい振られ方をした。『他に好きな人がいるから別れてくれ』って。
口論になって、逆上した彼が言った。『お前が作った弁当な、まずくて食えたもんじゃない。毎日ゴミ箱に捨ててたんだぞ』
本当か嘘か知らない。感情的になってそう言っただけかもしれない。でも、この言葉がショックで、ショックすぎて、私自身、この口論のことを忘れていた。
でもこの一件以後、私は変わった。その後何人かの人とお付き合いをしたけれど、弁当を作ることも料理をすることもしなくなった。なぜ料理をしないのか、自分でも分からなかった。
5年前に結婚して、娘が生まれた。『この子のために、パパのために、おいしい料理を作ってあげよう』って思う。でも台所に立つと、なぜか体が動かない。料理しようっていう意識はある。でも包丁が使えなくて、野菜を切ることもできない。
夫が料理してくれる人で(考えてみれば、あの彼氏と別れて以後、付き合った人は皆、自分で料理をする人ばかりだった)、私は私で外で仕事があるから、ちょうどよかったものの、妻として、母として、料理ができない自分にもどかしさを感じていた。
でも、その私が今、料理ができるようになったんです!
ゲルマを飲み始めて、つらい記憶がよみがえって、泣いた。『私、すごく傷ついてたんだ』って気付いて。
その後、ある朝起きたときに、ふと、夫のためにお弁当を作ってあげたいと思って、それで作れたんです!誰にも分かってもらえないかもしれないけど、これは私にとっては、奇跡なんです!」
【症例】62歳男性
【主訴】うつ病
【現病歴】5年前からのうつ病で、抗うつ薬(アナフラニール、ドグマチール)、抗不安薬(セルシン)、睡眠薬(レンドルミン)服用中。減薬と症状改善を希望して、2019年9月当院初診。
→ゲルマニウム 500mg/日 服用を指示。
2020年11月24日再診
「10月29日を最後にレンドルミンを飲んでない。これで薬をすべてやめることができた。睡眠の質はいまいちで、1時間ごとに起きたり早朝覚醒もあるけど、薬がゼロになったことがうれしい。
薬をやめて、自分が忘れていた感覚を思い出してきた。
これまでの私には顔がなかった。笑ったり泣いたり、表情が作れなかった。仮面をかぶっていたのが、ちゃんと自分の顔になってきた。変な言い方だけど、「悲しむことができる」ようになった。
実は5年前、18歳の飼い猫が死んだ。そのことがきっかけでうつ病になったと思う。でも5年前のそのとき、大事な猫が死んで悲しいはずなのに、全然悲しさを感じなかった。ただ、漠然とした不安だけがあった。「みんなこんなふうに死ぬんだ」と。それ以来、何もない虚無の底にずっと埋もれていた。
ところが数日前、ふと、死んだ猫のことを思い出して、涙が出た。死から5年。ようやく涙を流して、悲しむことができた。
同時に、私は立ち直ったと思う。もう大丈夫、という感覚がある」
【症例】57歳女性
【主訴】特になし
2026年6月23日初診
「健康には気を遣っていて、特に持病はないけど、ゲルマニウムに興味がある。一度飲んでみたい」
→ゲルマニウム400㎎/日 服用を指示。
2026年7月24日再診
「初めてゲルマニウムを飲んで、眠気がすごく出る。この1か月昼寝が増えた。ただ昼寝しても、夜も眠れるし熟睡できてる。排便も増えた。食べた分だけ出る、という感じ。量自体は多くない。宿便が出てるのかな。
あと、イライラするというか、怒りの感情がやたらと出るようになった。父に対する怒り、障害を持つ弟への思い、社会情勢とか将来への不安。
これまで我慢してきた感情が、ふつふつと胸に湧き上がるような感覚があって、自分でも戸惑っています」
上記の患者は皆、胸の奥に何かを抱えた人たちだった。
27歳男性(走ることへの挫折)、43歳女性(料理することへの嫌悪)、62歳男性(飼い猫の死)、57歳女性(支配的な父への怒り)
最後の57歳女性だけは、85歳のお父さんが健在で、怒りの感情が現在進行形なので、他の事例と少し違うけれども、ある種のトラウマを抱えていることは確かだ。
トラウマを抱えた人がゲルマを飲むと、以下の経過をたどるようだ。
ゲルマの服用開始→過去の想起→涙と許容→トラウマの解消
これらは、人間的な目から見ると、ストーリーとして納得できる。
同時に、トラウマに対して生理学的、解剖学的な目線から見る研究も進んでいる。

ネズミに心的外傷を与えると、海馬の萎縮、偏桃体の過活動、前頭前野の機能低下といった脳の変化が見られる。しかし治療により、それらの変化は改善する。
後悔、悲しみ、憎悪など、ネガティブな感情を抱えて生きることは、つらい。「過去にあったことは変えられない。だから、この感情が変わることもない」と一般的には思われていると思う。「だから、このつらさが癒えることもない」と。
でも、さまざまな研究や患者の体験談によると、全然そうじゃない。
トラウマは治ります。