ロンが来たのは2020年4月初めの頃で、桜が満開の時期だった。
コロナ禍の始まりでもあり、例年花見客でにぎわう公園は閑散としていて、ただ満開の桜だけがにぎやかに笑っていた。
そんな桜の下で、子犬のロンと写真を撮った。

2021年4月、ワクチンによる悲劇が静かに進行中のさなか、桜は人間のドタバタと無関係に美しく咲き誇っていた。
ゴールデンレトリバーは1年で成犬サイズになる。すっかり大きくなりました。

2年続けて「桜の下でロンを抱っこした写真」を撮ったことで、この行事は我が家で半ば恒例化して、以後、毎年続くようになった。2021年11月にツモが来た後も、2022年4月にこうちゃんが来た後も。

そして今年、2026年4月。

ツモはいない。

2025年12月に亡くなって以後、妻は毎日泣く。これは比喩ではなく、文字通りの意味です。ふと、会話の折にツモの話題が出ると、涙の発作が起こる。発作は10秒ほどで治まるが、こんな瞬間が毎日ある。「時間が悲しみを癒さない」ということがあるのだなと思う。情に厚い妻と比べて、時間にしっかり癒してもらった自分は、何だかずいぶん冷酷な人間みたいだ。
妻はうつ病になるタイプではないけれど、ツモの不在で開いた心の穴は、ロン1匹では全然埋まらないようだ。
新しい犬を迎え入れようということになった。
妻は、クリスチャンにあるまじきことだが、生まれ変わりを信じるようになった。「次に迎える子はツモちゃんの生まれ変わり」だと確信めいた口調で言う。「あの子は早く生まれ変わって、うちに来たがっている」と。
僕としては、新たな犬を迎え入れることに異論はないし、その子がツモの「生まれ変わり」であろうがなかろうが、どっちでも構わない。それは、物語なんだ。そういう物語があることで妻の悲しみが癒えるのなら、「意味づけはご自由にどうぞ」という感じだ。
3月、某県のブリーダーのところに赤ちゃん子犬の下見に行ったとき、2匹いた。「どちらも元気ですよ。この子はオス、この子はメスです。どちらにしますか」ブリーダーの説明を聞きながら、2匹の子犬を抱きながら、妻は言った。「選べない。あっちゃん、両方欲しいんだけど、いい?」
想定外の言葉に、僕は声出して笑った。
妻としても「2匹とも引き取ろう」と事前に考えていたわけではないが、可愛い2匹の子犬を抱いて、自然に出た答えがそれだった。そうであれば、もう仕方ない。
2匹引き取るとなって、さて、名前を考えないといけない。
時間はかからなかった。僕が直感的に決めた。
当院のスタッフが言う。
「当てて見せましょうか?『ポン』くんと『チー』ちゃんでしょ?(笑)」
ロン、ツモと来たので、麻雀用語でそろえてくると予想したわけだ。
いやいや、甘いですね。そういう発想はしません。

4月13日。満開の桜が散って葉桜になる頃に、新たなメンバーを我が家に迎えた。『サン』くんと『シー』ちゃんです。
以前の記事でも書いたことがあるけど、僕は、すべての源は太陽だと思っています。だから、こうちゃんが生まれたときにも、名前をどうしようかとなったとき、太陽にあやかる名前にしたいと思いました。「陽」とか「明」とか「日」とか、とにかく太陽にまつわる要素を入れたいなと。
https://note.com/nakamuraclinic/n/nef7c1a11c6d5
もうひとつ、僕が大好きなのは海です。海こそは命の源です。「海(かい)」とか「洋(ひろし)」とか、そういう海にあやかる名前もいいなと。
そういう思いがあるので、2匹の名前を決めるとなったとき、the Sunとthe Seaをそのまま名前にしました。Seaは「she」に通じるので、女の子ということも暗示してて分かりやすい。
ダブルミーニングとして、ロン(=1)、ツモ(=2)、サン(=3)、シー(=4)という具合に、ナンバリングになってるのは、奇跡の偶然です(笑)

ゴールデンの子犬には、とてつもない破壊力があります。どんなに冷たい、
氷の心を持った人でも、この子犬を抱いて胸が温まらない人はいない。それは、子犬時代のロン、ツモを抱いた経験から得た僕の確信です。
しかも、その子犬が2匹となったらどうでしょうか。

仮に自殺を決意していた人でも、子犬2匹にモフられたら、笑顔にならざるを得ない。「もうちょっと頑張って生きてみようかな」ってなもんです。

こうちゃんは「弟と妹ができた」と喜んで、いい遊び相手になってくれる。

家に帰れば、3匹のモフモフがいる。ロンがいるだけで満足していた僕だったけど、もっと上の幸福感があることを知りました。

ご飯を食べるとき、ゆっくり食べるシーに比べ、サンはやたらとガツガツと食べる。咀嚼をろくにせず、ほぼ「飲み込んでいる」。ツモもこんなふうだったなと思う。
初めて一緒に寝る夜、サンは僕のそばに来て、躊躇なく僕の顔に乗りかかった。そこはロンの定位置なんだけど、サンが遠慮なく陣取る。ツモみたいだ。
海に行った。初めて海を見たとき、ロンもツモも泳ぐどころか、波を怖がって近づくこともできなかったけれど、サンにはまったく恐怖がない。あまりにも堂々と沖のほうに歩いていくものだから、僕のほうで慌てて抱き上げた。「まだそんな深いところ行ったらあかんよ」
じっとサンの顔を見る。両目の上に黒い点がある。ツモも同じような特徴があって、僕と妻は「平安貴族の”マロ”って感じやな」と笑ったものだ。
ひょっとして、本当に、妻の確信する通りなのだろうか。早逝したツモが、妻の悲しみを癒すために、戻って来たのだろうか。だとしたら、ロマンのある話だな。
僕としては、どっちでも構わないんだ。とにかく、家に帰ったときの幸せ度が跳ね上がりました。
当院を受診した人は、6階にお立ち寄りください。そして、生後2カ月のサンとシーを見てください。子犬のすさまじい破壊力というのがどういう意味か、実感いただけるかと思います(笑)
ゴールデンの成長は早いので、半年もすればすっかり成犬です。可愛い子犬を見られるのは、今のうちだけですよ。