勤務医をしていた頃、患者に対して高圧的な医者を何人も見てきた。言いつけを守らない患者を罵倒したり、つまらない質問をしようものなら激怒したり。
僕は患者に対して怒りの感情を出すことはほとんどない。絶対怒らないというわけではないけれど、せいぜい片手で数えられるほどの回数しか怒ったことがない。でも、あきれることはちょくちょくある。
【ケース1】
「前回の診察のとき、にがりとかマグネシウムがいいと勧められましたけど、私、看護師の友達がいて、その子が「マグネシウムは絶対やめたほうがいい。救急で働いているとマグネシウムで腸に炎症が起こったり結石ができたりする人が多い」というので、マグネシウムはとっていません」
ああ、そうですか。いろんな意見がありますからね。そういうことならとらないほうがいいですね。
と一応返事するけれども、内心では、いったいここに何しに来てるの?と思っている。診察料払って、僕のアドバイスを求めに来てるんだよね?患者の悩みに対して、僕は「こういうやり方はどうですか」「ああいうのはどうですか」といくつかのオプションを提示する。それを試してみたところ、「効果がなかった」とか「体感が悪かった」というフィードバックはぜひとも欲しい。そういうのを踏まえて、また別の提案ができるから。しかし、僕よりも知り合いの看護師の言葉を聞いて、「マグネシウムは使いません」。じゃ、ここに何しに来てるんですか?僕ではなくて、そのナースに健康相談したらいいじゃない。
こういうとき、カルテを書く手を止めて、患者の顔を見る。僕は普段、あまり患者の顔を直視することをしないけれども、こういうときは、顔をあげて、相手の目を見る。どういう思惑でこういう言葉をいうのか、知りたいと思って。
この患者の場合、多分、単純に、素直過ぎるだけだろう。それが失礼であるということに気付かず、ただ、あったことだけを話している。表も裏もない。だから僕としては、腹を立てることもない。
ただ、僕は困惑する。「あなたの言うことよりも友人ナースの言葉に重きを置いています」という患者を前にして、これ以上僕のほうから一体何を言えばいいんですか?
【ケース2】
「以前、ワクチン後遺症に対してメチレンブルーを勧めてもらいましたが、自分なりにいろいろ調べてみると、あれって合成の色素ですよね。「ロックフェラーが作った」という話もあるし、怖いので飲んでいません」
ひとまず疑ってかかり、ネットで自分なりに調べて吟味し、納得してから行動する。すばらしいことだ。そうでなくてはいけない。コロナ禍を通じて得た最大の教訓は、「医者の言うことを盲信しては命さえ落としかねない」ということだ。だから、僕の言うことも疑ってもらって結構。
でもさ、僕の言うことって、ネットの情報と矛盾してることばかりだよ(笑)
「コロナワクチンを打つべきか否か」ネットで軽く検索しただけなら、「打つべき」という結論になるだろう。「抗癌剤治療するべきか否か」やはり、「するべき」という結論になるだろう。
グーグルという検索エンジンの仕組み自体が、製薬利権の意向を強く汲んでいるのだから、強い情報バイアスがかかっている。「真実はネットにある」なんて、全然そんなことない。上手に調べれば「真実が見つかることもある」程度なもので、表面的に検索するだけなら、真実どころか、当局に都合のいい情報をつかまされるだけだよ。
【ケース3】
「頭痛に対して何かいいサプリありますか?」
頭痛って、初めて聞きましたけど、そういう症状もあったんですか?
「いえ、私のことではありません。私の友人のことです」
この手の「○○に対して効くサプリ、教えてください」的な質問、ちょくちょくあるんだけど、ネットで検索したらええやん。「頭痛 サプリ」とか「頭痛 ビタミン」とかで検索したら出てくるんじゃないの?知らんけど。
こういう質問をする人は、結局、対症療法的な思考から抜け出せていない。「頭痛がある。できればさっさとロキソニンを飲みたい。でもロキソニンは体に悪いとかいうんだろ。じゃ、ロキソニンの代案を出せ」ということで対処法を求めている。
僕はあまりこういう質問に答えたくないんですね。なぜ頭痛が起こるのか、その根本的なところを考えて、日々の食事を振り返ったり、添加物、農薬、電磁波曝露など、生活習慣を見直したり。そういうふうに解決策を見出していきたいと思っている。それなのに、「さっさと知識をよこせ」と言わんばかりの質問をされると、なんだか、全身の力が抜けます。
あと、自分のことではなくて、友人のことで相談するっていう。
これは、家族のことでの相談はありだと思っています。家族というのは共同体で、その構成員の健康は自分の健康と直結してるから。毎日ひとつ屋根の下で暮らして同じものを食べてるし、誰かが風邪を引けば家族内でも流行したりする。だから僕は、家族の症状についての相談は応じることにしている。ただし、深いところまで聞きたいのなら、本人を連れてきてちゃんと受診して欲しいけれども。
しかし、まったく赤の他人の頭痛について、僕に聞くのってどうなのよ?知らんがなって話でしょ。
繰り返すけれども、僕は患者相手に腹を立てることはほとんどない。
ただ、あきれるのです。