プロテインと筋力

「プロテインを飲んでいますが、先生、どう思いますか?」と聞かれても、「体にいいのでぜひ続けてください」とは言わないし、「体に悪いから今すぐにでもやめてください」とも言わない。何となくはぐらかすように、「ご自身が効果を実感しているのであれば続けるといいですし、そうでないのなら別にやめてもいいんじゃない?」と、のらりくらり煮え切らない返答をすることにしている。
確かに、タンパク質の積極的摂取によって改善する病態はあるだろう。しかし、それだけのことである。それ以上の意味はないはずなのに、まるで「プロテインをしっかり飲めば万病が改善する」かのように信じている人がいる。
「肉、卵、チーズなどタンパク質をたくさん食べて、さらにホエイプロテインもきっちり飲んでいます。鉄剤も飲んでいます。でもよくなりません。なぜでしょうか?」
丁寧な言葉の裏側に、抑制された怒気を感じる。敬語や婉曲表現を抜いてあけすけに表現すれば、言いたいのはこういうことだろう。「オーソモレキュラーを信じて実践しているのにまったく改善しないじゃないか。裏切られた思いだ!一体どう説明してくれる?」
誤解であり、とばっちりである。拙訳『オーソモレキュラー医学入門』を読んで頂ければ分かるように、タンパク質や鉄剤の積極的摂取を勧める記述はどこにもない。著者のソール先生は、肉の多食は血液の酸性化(アシドーシス)を招くとしてむしろ戒めている。世の中にはタンパク質や鉄の積極的摂取を勧める先生もいるかもしれないが、それを一般的なオーソモレキュラーだと思われては困る。これは僕についても言えて、僕はCBDオイルや有機ゲルマニウムをよく使うけど、それは全然オーソモレキュラーの流儀ではない。「よさそうだな」と思って僕が勝手に取り入れているだけのことだ。栄養療法を実践する医者にもいろいろなタイプがあって一枚岩ではないのだ、ということを知っておいてください。

以前は、プロテインといえば「ボディービルダーが飲むもの」ぐらいの社会的認知だったのが、最近では「猫も杓子もプロテイン」である。
そこで、こんなことを思った研究者がいる。「ボディビルダーがプロテインをガンガン飲みまくってあれだけ見事な筋肉になるのだから、特に運動をしない人がプロテインを飲んでも、筋肉量の増加(あるいは維持)に有効なのではないか?」
この仮説を実際に検証した研究が、きのう発表された。できたてホヤホヤの論文です。
『プロテインの効果~健康な高齢者が1年間ウェイトトレーニングをした場合としなかった場合で、筋肉の大きさ、筋力、機能にどのような違いが生じるか』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33564844/

「高齢者の筋萎縮の予防や筋力の維持にプロテインがいいのではないか、という提案が前々からあって、それを検証してみた。
208人の健康な高齢者(65歳以上)に1年間ご協力いただいた。彼らを無作為に5つの群に割り振る。
(1群)炭水化物の摂取群(プラセボ群として)
(2群)コラーゲンプロテインの摂取群
(3群)ホエイプロテインの摂取群
(4群)軽い強度のウェイトトレーニング(週に3~5回)をするホエイプロテインの摂取群
(5群)強い強度のウェイトトレーニング(週に3回)をするホエイプロテインの摂取群
なお、服用したプロテインは20gのプロテインと10gの炭水化物を含み、(1群)の服用する炭水化物は30gである。全群において、炭水化物あるいはプロテインの摂取は1日2回とした。
結果、コラーゲンプロテイン(2群)とホエイプロテイン(3群)は、炭水化物(1群)と比べて、どのパラメーターにも影響を及ぼさなかった。
3群と比べて、5群では大腿四頭筋の横断面サイズ(P = 0.03)、膝伸筋の動的筋力(P < 10-4)、静的(アイソメトリック)筋力(P < 10-5)が、それぞれ有意に向上していた。
4群では、大腿四頭筋のサイズは向上していなかったが、膝伸筋の動的筋力は向上(P = 0.01)していた。
結論として、健康な高齢者にプロテインだけ飲ませても、筋肉量の維持や筋力向上は見込めない。ただし、強い強度のウェイトトレーニングを併せて行った場合には筋肉量の維持や筋力向上に有効である」

まぁ、当たり前といえば当たり前の結論である。「プロテイン飲んどけばそれだけでオッケー」ではなくて、ちゃんと運動しないと意味がないよ、ということ。
だから、恐らく、寝たきりのご老人にはプロテインは効かない。少なくとも、筋肉量の維持という目的では。

思うんだけど、だいたいさ、日本人ってほぼベジタリアンみたいな生活をしてきたわけでしょ?いや、思想としてのベジタリアンではないよ。当然、肉を食う時には食ってたと思う。山でイノシシが獲れたとか。海沿いに住んでる人なら魚はそれなりの頻度で食べてただろうし。でも基本的には、野菜とか米ばっかり食べて体を養ってきた民族でしょ。それで何ら問題なく、千年二千年健康に過ごしてきたわけ。
健康になるために、本当に、やたらめったら動物性タンパク質を食べる必要があるの?それって、日本人の食性に合ってるの?
あのね、いろんな○○理論とか○○式健康法があるわけだけど、あまり「理論に自分を合わせよう」としちゃダメだよ。合う人もいるだろう。でも、合わない人もいる。
一番大事なのは、自分の体感だからね。

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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