中国人の男の子

先日、神戸で福山雅治のライブがあった。ファン歴30年という妻が「仕事とかコロナとかこうちゃんの世話とか何かと忙しくて、マシャのライブは8年前を最後に、もう行けてない。せっかく神戸に来るっていうから、行きたい。あっちゃん、ロンとこうちゃん見ててくれる?その間に行ってくるから」
いやいやいや、それは無理やわ。だいたいこうちゃんが嫌がるやん。俺とずっと一緒っていう。お前おらな無理やって。
「大丈夫。こうちゃんももうすぐ4歳。大分しっかりしてきたから」
拒否権はない(笑)押し切られて、僕が半日、こうちゃんとロンを見ることになった。

僕、こうちゃん、ロン。
このメンバー、男3匹で過ごすのは、実際のところ、初めてのことだ。こうちゃんとママはいつもワンセットで、妻は女帝のように男3匹を支配下に置いている、というのが我が家の日常風景なので(笑)
女帝の不在で、僕はちょっと当惑した。妻抜きで、こうちゃんと過ごす。
なんというか、こうちゃんは最近、人間になってきたと感じていた。いやもちろん、生まれたときからずっと人間だったけど、そういう意味ではなくて、最近のこうちゃんは、ちゃんと会話のキャッチボールができるとか、なんなら僕がハッとするようなことを指摘したりして、もう本当、人間なんだよ、一個の個性を持った。
そうなる前のこうちゃんは、人間というより、天使だった。ただただ可愛くて、笑ったり泣いたり。感情のカタマリ、という感じで、まだ「ヒト以前」の妖精だった。
しばらくママがいなくても過ごせるという事実自体が、こうちゃんが人間になってきた証拠だろう。
人間こうちゃんと過ごすのは、僕のほうにも覚悟が求められる。それは、父親になる覚悟だ。父親は、子供が生まれただけで、父親になるわけではない。子供との関係性を通じて、だんだんと父親になってゆくのだな。

こうちゃんは最近「たたかい」が好きで、しょっちゅう僕に「たたかいしよ」と持ち掛けてくる。こうちゃんがアンパンマンの人形を持ち、僕がバイキンマンの人形を持ち、それぞれの人形がアンパンチを放ったり、バイキンビームを放ったり。要するに、人形を使ったごっご遊び。こうちゃんは飽きずに延々やり続けるのだけれど、僕は10分20分くらいが限界。煮詰まってきたので、「こうちゃん、外、散歩しよか。ロンも連れて」

ロンの手綱を引きながら、こうちゃんと歩いて公園に行った。
あまり利用者のいない寂れた公園だけど、先客がいた。グラウンドのあたりに、6歳ぐらいの男の子と母親がいた。男の子はひとりでボール遊びをしていた。バスケのドリブルの要領でボールをリズミカルについたり、サッカーのリフティングをしたり。
こうちゃんの社交性はすさまじくて、他人でも遠慮なく話しかける。それで、こうちゃん、この男の子にも近寄って声をかけた。「ボール、ヨーヨーみたいね」
バスケの要領でボールをついている様子を、ヨーヨーが上下することにたとえたのだ。
いきなり声をかけられて、男の子はこうちゃんを見た。しかし何も言わない。そばにいる母親は、こうちゃんにほほ笑みかけた。しかしやはり、言葉はない。
僕はこうちゃんをせっついて、「ほらほら、行くで」

歩きながら、「ちょっと愛想のない子やな」と思ったけど、こうちゃんがどんなに社交的でも、相手が引っ込み思案では仕方ない。
いや、それより母親が無言というのはどういうことか。子が引っ込み思案なら、子に代わって何か返答すればいいものを。

もとより目的地のない、ロンの気まぐれのままに歩くだけの散歩である。ロンに導かれるままに歩いているうちに、また母親と男の子の前を通りがかったとき、彼らの会話の切れ端が聞こえた。中国語だった。
ああ、なるほどと思った。
公園の近くに中華同文学校がある。授業は基本的に全部中国語で、恐らく両親ともに中国人の男の子は、日本語が話せないのだろう。
男の子はこうちゃんの声がけに無関心だったわけではない。それどころか、うれしかった。でもとっさに言葉が出なかった。それだけのことなのだ。

実際その後、こうちゃんが遊具で遊んでいると、男の子は不自然なほどすぐ近くまで来た。手を伸ばせば触れられるほどの距離だけど、言葉は出ない。あるいは、うっかり手元をそれたボール(本当はわざと転がしたボール)を拾いに来るために、こうちゃんの近くに来る。しかし、話しかけることはない。
そんなふうに頻繁に男の子が近くに来るものだから、こうちゃんも男の子の興味に気付いている。でも、こうちゃん、相手からこういうふうに来られると意外とシャイで、何と言っていいかわからない。

こんなときには、大人の僕が、二人をつないであげればよかった。僕が男の子に向かって、「ボール、一緒に遊んでくれる?」などと言えば、二人はすぐにでも友達になっただろう。
でも、しなかった。男の子、こうちゃん、僕、3人の中で、僕が一番社交性がないからです(笑)

最近、台湾に関する高市総理の発言をきっかけに、日中関係が不安定になっている。中華同文学校について「スパイ養成機関ではないか」などと考える人もいる。確かに、この学校は清朝最後の皇帝(愛新覚羅溥儀)の末裔が設立した由来もあって、中国本土との結びつきは強い。学校として中国共産党への支持を表明しているし、中国駐大阪総領事からの支援を受けていることは、陰謀でも何でもなく公表済みの事実だ。

この学校がスパイ養成機関を兼ねているのかどうか、僕は知らない。
ただ、今日分かったことがある。それは、こうちゃんも男の子も、すごく友達になりたがっていたということだ。お互い不器用だったり言葉の壁があって会話できなかったけど、二人の距離はすごく近かった。物理的にも、心理的にも。
僕は自分が3歳のときの記憶はない。同じように、こうちゃんも今日のことを後年、何も覚えていないだろう。
でもこうちゃんがもっと大きくなったとき、僕が思い出させてあげよう。
こうちゃん、君は中国人の男の子と友達になりたかったし、男の子もこうちゃんと友達になりたかったんだよ、と。
大人がたくらむ戦争のドンパチとかスパイがどうのとか、本当、子供には迷惑極まりないよね。

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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