癌の高pH療法

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Keith Brewer (1893-1986)

キース・ブリュワーはもともと核物理学の研究者だったが、あるときから生物学に転向して、癌治療の分野で大きな成果をあげた。フランシス・クリック(DNA二重螺旋の発見)もそうですが、一流の物理学者は生物学の分野でも革新的な仕事をすることが多いものです。
「力とは何か」を追求するのが物理学ですが、生物の体内で起こる化学反応はすべて、様々な分子が相互に引きつけあう力によって起こる。そういう意味で、生物学も化学も、結局のところは「力学」です。

なぜ癌になるのか?
この問いに対して、ブリュワーは物理学的な思考を導入することで、ひとつの答えを示し、かつ、治療法を提示した。彼は、ワールブルグの実験を根本原理に据えました。

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1923年ワールブルグは低酸素による癌が誘導されることを証明。

高校で習う生物と化学の復習ですが、細胞膜はリン脂質による脂質二重膜からできています。それぞれのリン脂質は、親水性リン酸基からなる「頭部」と、2本の親油性脂肪酸からなる「尾部」を持つ。2本のしっぽを持つオタマジャクシのようなイメージです。

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オタマジャクシの頭には、P(リン)とO(酸素)の二重結合があって、4個の結合電子(マイナスの電気)がある。OはPよりもはるかに強く電子を引き付けるので、O側はマイナスの電荷を帯びている。このマイナスの電場こそが、細胞内部への陽イオン(プラスの電気)の輸送を可能にする鍵になります。
具体的にどんな陽イオンを引き寄せるのか?
ここで、高校化学で習ったイオン化ポテンシャルを思い出します。

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イオン化ポテンシャルは、
Cs < Rb < K < NH4 < Ba < Na < Ca < Li < Mg
という並びで、基底状態(細胞が興奮してない状態)では、Cs(セシウム)イオン、Rb(ルビジウム)イオン、K(カリウム)イオンまでしか引き付ける力を持たない。つまり、基底状態で細胞内に入れるのは、Cs、Rb、Kの陽イオンまでです。
陽イオンは細胞外液中で、他の極性分子と結合しているものですが、Csイオンの結合力は最弱で、せいぜい水分子3個とくっつく力しか持ちません(Cs-3H2O)。これがRbイオンになると、Csイオンよりは強くなって、5個の水分子と結合します(Rb-5H2O)。Kイオンは7個の水分子とくっついたり(K-7H2O)、グルコースとくっついたりできます(K-glucose)。
基底状態では、これらの陽イオンが結合物(水分子、グルコース)とともに細胞内に入ります。裏返していうと、基底状態で細胞内に流入できるのは水分子とグルコースだけです。
一方、イオン化ポテンシャルのさらに大きいイオン、たとえばNaイオンは15個の水分子と結合できるし、ATPのような重い極性分子とも結合します。こんな具合に、Na、Ca、Li、Mgイオンはもっと重い分子と結合できます。

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細胞が励起(興奮)すると、Cs、Rb、Kイオンだけではなく、Na、Ca、Li、Mgのような陽イオンも細胞内に入ることができて、それぞれの結合物(酸素、アミノ酸など)も細胞内に流入します。たとえばCaイオンは細胞外で過酸化物を結合していれば、細胞内への流入に伴って酸素をもたらします。

つまり、基底状態で細胞内に流入できるのは水とグルコースだけで、励起状態では酸素、各種アミノ酸など、さまざまな物質が流入できる。これが健康な細胞です。

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さて、ここで、細胞膜に多環式分子(石油由来物質、モルヒネなどの発癌物質)が付着すればどうなるか。細胞膜の励起が完全に抑制されます。あるいは、放射線への曝露によっても細胞膜構造を破壊して励起が抑制される。
細胞膜の励起が阻害されると酸素欠乏をきたします。結果、細胞はグルコースの嫌気性代謝を余儀なくされる。健康な細胞ではグルコースを水と二酸化炭素に分解するところ、グルコースから乳酸が生じる。
また、癌細胞はNa、Ca、Mgなどの陽イオンを取り込むことができない。実際、癌細胞のCa含有量は正常細胞の1%である。

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乳酸発酵により、細胞内pHが7.4から7.0、さらに6.5などと低下します。酸性環境では、DNAが壊れやすくなり、染色体異常が発生して、細胞は制御機構を失い、無限に増殖する。これが細胞の癌化です。
さらに、癌化した細胞では、正常のときにはありがたい仕事をしていた酵素(リソソーム)が毒性を持ち、最終的に細胞自体を死に至らしめる。このようにして死んだ細胞から酵素が漏れ出して、周辺組織、ひいては宿主たる人間を障害する(癌による悪液質)。また、癌細胞と癌細胞の接着は極めて弱いため、腫瘍塊から剥離した癌細胞があちこちに転移していくことになる。

一行でまとめると、
細胞が励起できず、そのため酸素などの有用物質を細胞内に取り込むことができず、しかしそのくせグルコールの流入だけは止まらず、結果、無酸素状態でグルコースを代謝するため乳酸が生じてしまい、細胞内pHが低下し、そのためにDNAが損傷され、細胞の制御機構を失い、癌になる
以上が、ブリュワーの提唱した癌の発生メカニズムです。

では、治療はどうするのか?ブリュワーはpHに着目しました。
一般的な細胞のpHは7.35~7.45で、癌細胞は6.5~7.35ぐらいです。そこで、彼は癌細胞がどれくらい高いpH、あるいは低いpHに耐えられるか、調べました。すると、癌細胞はpH6.5以下の強い酸性、あるいは7.5以上の高いアルカリ性では休眠状態に入ります。もっと高いpH、たとえば7.8を超えると、癌細胞は寿命が短くなり、やがて死滅します。同様に、pH6.5以下の低pH環境でも同じことが起こります。
つまり、細胞がpH変化に耐えられる範囲が限られていること、癌細胞がpH制御能を失っていること、これらの特性から、癌に対する治療アプローチが考えられます。

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pHが高くなれば癌細胞は休眠状態に入り、もっと高めれば死滅するというのだから、単純に、癌細胞内のpHを高めて強アルカリにしてやればいい。そこで、先ほどの考え方が効いてきます。

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周期表を見れば、アルカリ金属というのがありますが、ブリュワーは最も活性の高い3つのアルカリ性陽イオン(Csイオン、Rbイオン、Kイオン)に注目しました。これらの細胞内輸送を大量に促進して癌細胞に食わせれば、高pHに耐えきれなくなって癌細胞は死滅するはずです。

その方法として、ひとつには、細胞膜を横断する負電荷勾配を高めることです。具体的には、ビタミンAやビタミンCは細胞内に吸収される酸性ラジカルで、これにより癌細胞のアルカリ性陽イオンの取り込みが高まります。
もうひとつ、細胞膜上で多価結合(二重結合、三重結合など)ができると、これが輸送サイトとして機能します。たとえば、Zn(亜鉛)イオンやSe(セレン)イオンはリン脂質の頭にある酸素と二重結合するし、ビタミンB17などに含まれるシアン化物ラジカルには三重結合があります。

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以上の理論をもとにして、ブリュワーは『癌の高pH治療法』を提唱しました。

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セシウムなどというと、我々日本人はどうしても放射性セシウムをイメージしますが、ここでいうセシウムは天然の安定セシウムで、放射性は全くありません。これを1日3~6g服用する。
ここで、癌患者が「セシウム?何か怖い。でも癌に効くというのなら、ちょっとだけ飲んでみようかな」ということで、たとえば1日0.5gとか少しだけ飲むのは、むしろ逆効果です。中途半端にpHが上がって、癌の増殖を促進するリスクがあるからです。「飲むならしっかり、1日3g飲む」ことが重要です。
Csを数週間服用すると、唇や鼻先にしびれを感じる場合があります。これは、CsがKやMgを置き換えてしまうためです。だから、高pH療法をする人はCsと同時にKやMgの補充が必須です。Kサプリやバナナ、ジャガイモなどKを豊富に含む食品をとりましょう。K(とビタミンE)は、癌細胞から漏出する酸性毒素を緩和する意味でも有効です。
1日6g以上とか高用量だと吐き気を生じることがありますが、そういう場合は空腹時ではなく、食後に飲みます。ショウガを積極的にとるのも症状緩和の助けになります。

ビタミンAについて、個人的には、βカロテン(粉末)のほうがいいし、ニンジンの大量摂取ができるなら、それがベストだと思います。
いずれ機会があれば、ハンス・ニーパーの提唱する癌治療を紹介しますが、彼の治療プログラムにはβカロテンと酵素の積極的摂取が含まれています。

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『人参パイナップルジュースで癌を治す』

「理屈は分かったとて、それでも、セシウムを飲むことには抵抗感がある」とか「癌患者ではなく、健康な人がセシウムを飲んだらどうなるのか」といった疑問があるかもしれません。
こんな論文があります。

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癌ではない著者が塩化セシウムを毎日6g飲んだところ、「全身の健康感と感覚の鋭敏化」を感じたとのこと。
僕は、患者に勧めるサプリは必ず自分で一度は飲むようにしていて、僕自身も塩化セシウムを飲んだ。毎日3gを1か月続けた。飲み始めてしばらくして、確かに鼻先にしびれを感じるようになったけど、塩化カリウムを飲むと症状は消えた。エネルギーのみなぎる感じも確かにあって、逆に、自分の体はずいぶん酸性化していたのだなと実感しました。

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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