
こぎれいな身なりをしたご老人が、若い女性に声をかける。「食事でもご一緒にいかがですか」
ひとめ、70代は超えているだろう。「ジジイがよく口説いてきたな」と内心に不快を感じて、女性は視線を反らし無視を決め込んだ。
しかしまもなく、そばに車が到着した。車に詳しくない女性にも、超高級車であることはすぐに分かった。
「本当に、行きませんか」
老人が改めて水を向けると、女性の心は揺らいだ。「このチャンスを逃しちゃいけない」
女性はいそいそと車に歩み寄り、躊躇なく乗り込んだ。
短い動画で、多分やらせではないと思う。
暗黙の文脈として、マカオということが大きいと思う。信じられないほどのスーパーリッチがあちこちにいることはこの女性も知っていて、それで、「チャンス!」となった。
同じナンパを日本でやったとして、多分、うまくいかない。日本は、最近でこそ所得格差が開いてきているとはいえ、スーパーリッチといえるほどの大金持ちはそれほどいないから。
この動画は示唆的です。
男性の何たるか、女性の何たるかが、よく出ています。
たとえば、逆はあり得ない。美しく着飾った高齢の貴婦人が、暇そうな若い男性に声をかけて食事に誘う、なんてことはない。
男はいつも狩人で、若い女を求めている。求められた女は、男を値踏みして、誘いに乗るかどうかを決める。常に決定権は女性にある。
こんなことは今さら言うまでもないことで、世の全ての女性はこのことを自覚している。
だから、女性はネット掲示板にこんな書き込みをする。

どうすればお金持ちの男性と結婚できますか?
今年25歳の女性です。変に謙遜することなく、あえて率直に言いますが、私は美人です。スタイルもいいですし、内面的にも魅力的だと思っています。結婚するとして、そんな私に見合うのは、最低限年収50万ドル以上の男性だと思っています。
欲張りだと思われるかもしれませんが、ニューヨークでは年収100万ドルでも中流階級にしかなりません。年収50万ドル以上という私の希望はそんなに高くないと思っています。このフォーラムに、年収50万ドル以上の方はいらっしゃいますか?皆さん既婚者ですか?お聞きしたいのは、そんなお金持ちの人と結婚するには、私はどうすればいいのでしょうか?
私が今まで付き合った中で一番収入が高い人は年収25万ドルでした。でも、ニューヨークの高級住宅地、たとえば「ニューヨーク・シティ・ガーデン」の西側に住もうとするなら、年収25万ドルでは足りません。
ここでいくつか質問させてください。
・お金持ちの独身男性は、普段どこに出没しますか?(バー、レストラン、ジムなどの名前と住所を教えてください)
・どの年齢層を狙うべきでしょうか?
・なぜお金持ちの奥さんは平均的な見た目の人が多いのですか?私から見て、全然パッとしない女性なのにお金持ちと結婚している人を何人か見たことがあります。どうしてなんでしょう?
・男性は、どのようにして「妻にしたい女性」と「彼女止まりの女性」を判断するのですか?(私は今「結婚」を目標にしています)
Ms. Prettyより
この質問に対して、JPモルガンと名乗る男性から返信があった。

親愛なるMs. Prettyへ、
投稿を興味深く読ませていただきました。あなたのような疑問を抱く女性は世の中にたくさんいると思います。どうか私に、プロの投資家としてあなたの状況を分析させてください。
まず前提として、私の年収は50万ドル以上で、あなたの希望条件を満たしていますので、ここで与太話をしているわけではないことをご理解いただければと思います。
ビジネスパーソンの観点から言えば、あなたと結婚するのは「悪い決断」です。細かいことはさておき、経済学的に見れば、あなたがしようとしているのは「美しさ」と「お金」の交換です。つまり、Aさん(あなた)が美しさを提供し、Bさん(私)がその対価を支払う、というフェアな取引です。
しかし、ここには致命的な問題があります。あなたの美しさは必ず衰えますが、私のお金は理由もなく減ることはありません。現実として、私の収入は年々増えていく可能性がありますが、あなたが年々美しくなっていくことはありません。
したがって、経済的視点で言えば、私は「価値が増す資産(=評価資産)」であり、あなたは「価値が減る資産(=減価償却資産)」です。それもただの減価ではなく、「指数関数的な減価」です。もし美しさがあなたの唯一の資産であるなら、10年後にはその価値は大きく低下していることでしょう。
ウォール街で使われる用語で言えば、すべての取引には「ポジション」があり、あなたとの交際はまさに「トレーディング・ポジション」です。もし取引価値が下がったなら、我々はそのポジションを手放す(売る)のであって、長期保有するのは良いアイデアではありません。あなたが望んでいる「結婚」も同様です。
これは残酷に聞こえるかもしれませんが、より賢明な判断をするためには、価値が急速に下がる資産は「売る」か「リースする(貸す)」のが業界の常識です。
結論です。私を含め年収50万ドル以上の男性はバカではありません。我々はあなたと「デート」はするかもしれませんが、「結婚」はしません。
私のアドバイスとしては、「お金持ちと結婚する方法」なんて、探すのをやめたほうがいいということです。
代わりに、あなた自身が年収50万ドルの「お金持ち」になる努力をしたほうが、金持ちのバカを探すよりもずっと成功の確率が高いでしょう。
この返答が役に立てば幸いです。
なお、「リース」にご興味があるなら、ぜひご連絡ください。
敬具
J.P.モルガン
鋭くて、シャレが効いている。
この返信を見た相談者の女性は、胸をグサリとやられたんじゃないかな。
掲示板上のこのやりとりは、2007年頃に金融界隈の関係者の間で話題になって、経済雑誌『フォーブス』や『フィナンシャルタイムズ』でも取り上げられたことがある。
20年近く経っても、おもしろい。古びない。
それは、上記JPモルガン氏の返信が、男女関係の真理を突いているからだろう。

西川史子さんも同じようなスタンスでしたね。日本だから、男性に要求する金額は年収4000万円にスケールダウンしてるけど、心理としては上記相談者の女性と同じだよね。

JPモルガンというので、モルガンお雪のことを思い出した。
百年前のこと。白人が日本人女性を当たり前に「買う」時代だった。
1901年失恋の憂さを晴らすための旅行として、30歳のジョージ・モルガンは京都を訪れた。

今でも毎年4月に行われる「都をどり」を観劇したジョージは、紙吹雪や桜の景色などの舞台演出に強い感銘を受けた。その後、舞台に出演していた芸妓らと料亭で食事をした際、その芸妓の中にお雪がいた。胡弓をひき、おもてなし心と愛嬌のある20歳のお雪に、ジョージは好意を持った。
お雪と会うために『小野亭』に頻繁に通うようになった。ただ、通うのではない。京都で人気の饅頭があると知れば、それを土産に持っていく。金の髪飾り、シルクのハンカチなど、庶民にはとても手が出ないような装飾品をプレゼントする。こうしたアプローチに対し、お雪の対応は見事だった。好意を素直に喜び、返礼としての好意を返すが、かといってジョージの要求に応じるわけでもない。仕事柄、客からの誘いはありふれたことで、それに対するあしらい方もお手のものだった。
ジョージの叔父(父の兄)は、J.P. モルガンである。彼の創始したモルガン財閥は、多くの鉄道を経営統合し、USスチールを買収し、19世紀末には米国最大の財閥になった。欧州のロスチャイルド家と並び称される金融財閥であり、経済界における権力は米国連邦政府を上回るほどだった。
「モルガン家に買えないものはない」
世間の人々はそんなふうにモルガン財閥の経済的成功を賞賛するが、しかし、ジョージは、お雪の心が全然自分に傾かないことを感じていた。
贈り物をする。大いに驚き、遠慮し、「そんな高いものはもらえません」と断るが、「君に似合うと思って持ってきたんだ」などと熱心に話すと、やがて受け入れ、笑顔を見せて喜んでくれる。しかし、そこまでのこと。贈り物に対する感謝があるだけのことで、そこから先がない。
ジョージはもどかしかった。一時的な小旅行のつもりで訪れた京都である。帰国の日が迫っていた。日本人は直接的な物言いよりは、婉曲表現を好むことは知っている。しかし、あまりそう悠長なことは言っていられない。ジョージはお雪にはっきりと告げた。
「君と一緒になりたい。一緒にアメリカまで来ないか。愛人などではない。正妻として君を我が家に迎え入れたい」
J.P.モルガンを叔父に持つ世界最大の資産家が求婚したのである。それも、京都の一芸妓に。
しかしお雪の返答は、にべもなかった。
「私、すでにお付き合いしている彼氏がいます。もったいない話ですけど、お受けできません」
これは本当のことだった。
お雪には、10歳年上で京都帝大に通う恋人がいた。金に困る苦学生で、お雪は彼のために生活費や学費の支援までしているのだった。
ジョージはこの答えに不意を打たれた。最初、鼻先で笑いそうになった。しかし、この言葉が本当であることを知って、お雪の優しさに確信を持った。お雪を求める心は、ますます強くなった。
米国に戻ったジョージは、父に日本での出来事について率直に語った。父親の返答は、おおよそ予期していたとはいえ、厳しいものだった。
「日本人と結婚したい?それも、ゲイシャと?お前、気でも狂ったのか?
そもそも、彼女に振られた傷心を癒すための日本旅行だったよな。気持ちが弱ってるんだよ。もうちょっと頭を冷やせ。我々誇り高いユダヤの血に、ジャップの血が混じるようなことは、断じてあってはならないんだ」
ジョージは叔父の銀行に勤めていた。その仕事にひと区切りをつけ、翌年、また日本を訪問した。
迷いはない。家族が何と言おうと、お雪と一緒になる。その決意は固く、お雪に再度のプロポーズをした。
「そこまで言っていただいて、とても光栄です。ただ、どうお答えしていいものやら、一芸妓の私には判断ができません」
そこで出てきたのが、日本芸能界の某フィクサーである。彼はジョージにこう言った。
「お雪と一緒になりたいんか。あんたね、あまり無理なこと言うもんやないよ。祇園には祇園のルールっちゅうもんがある。あんたが大金持ちって噂は聞いてるけどな、札束で人の顔引っ叩いて、なんでも思い通りになると思ったら、そら違う。筋が通りまへん。
でも、あんたが、どうしてもこの子が欲しいっていうなら、せやな、4万円でどうや」
無論、ジョージを諦めさせるために吹っかけたのである。
当時の4万円は、今でいうところの4億円である。
これだけ吹っかければ、すごすごと引き下がって、厄介払いできるだろう。
しかしこれを聞いたジョージの心には、希望が湧いた。
「4万円。確かに簡単な額ではありません。少し待ってください。しかし4万円お渡しすれば、本当にお雪をくれますか」
「おう、こっちも武士やからな。二言はない」
その後、二人は結婚するのですが、「末長く幸せに暮らしましたとさ」とならないところが、現実の厳しいところです。
京都に原爆が落ちなかったのはモルガンお雪の意向が通ったから、という俗説があるけど、本当のところはどうなのかな。
金で女を買う、などといっても、このモルガンのレベルまでいけば、本物です。