数か月前に初めて、患者から「四毒」という言葉を聞いた。
ヨンドク?
「甘いもの、小麦、乳製品、油のことです。吉野先生が言っています」
その後もちょくちょく他の患者から聞くことがあって、界隈でずいぶん広がっている言葉なのだと知った。

特に新味はない。「甘いもの、小麦、乳製品は控えめにね」ということは、ずっと以前から患者に言ってきた。
「油」については、「サラダ油とか粗悪な油はやめておこう。ほら、スーパーで大きなペットボトルに入った安物のオリーブオイルとかあるやん。『なんでこんな安いの?』みたいな。ああいうのは買っちゃダメ」みたいなことは言ってたけど、特に油全般を忌避する指導はしたことがない。
だって、使うやん。野菜炒めとか、焦げ付かないようにちょっと油ひくよね。別に油をごくごく飲むわけじゃあるまいし、それぐらいは使ってもいいよ、という認識でいるんだけど。
上記の本は読んでないので、油がなぜいけないのか、吉野先生の真意は知らない。しかしともかく、忌避すべきものを『四毒』という言葉でワンセットにしたのは、吉野先生の発明だろう。
新規の患者には、いつも必ず「砂糖菓子、多くないですか」「パンとか麺、どのくらいの頻度ですか」みたいな質問をする。しかし「四毒」というワードが一般化すれば、「四毒、避けてますか」と一気に聞ける。聞き洩らしがない。便利な言葉だ。
もっとも、現状、患者のほうで「ヨンドク?何それ?」という人のほうが多いだろうから、僕のほうからこの言葉を使うことはないけれど。
しかし、「毒」という表現は、ちょっとあんまりじゃないかという気もする。
一般大衆の問題意識を喚起するうえで、これぐらい強烈なほうがキャッチーだというのは分かる。実際最近では、僕がいうまでもなく、患者のほうで「小麦はよくないって聞いてるので、控えめにしてます」みたいな人が着実に増えていて、指導の手間が省けてありがたいことだ。
でも、甘いもののすべてが毒か、小麦でできた商品のすべてが毒か、というと、決してそんなことはないと思っている。
まず、甘いものは、大体において、体に必要です(人工甘味料は除く)。
語源的には、「果物が熟れる(うむ=熟む)」の「うむ」が形容詞化して「うまし」になり、そこから「あまし(=甘い)」という言葉ができたように、「あまいもの」は「うまいもの」なのです。それは僕らの本能に根差した感覚です。
実際、グルコースは生存に必須で、糖質制限など極端な食事制限によりグルコースの供給が断たれると、タンパク質や脂質からわざわざグルコースが作られる(糖新生)。それぐらい、体はグルコースを欲している。
かといって、グルコースの補給として、白砂糖はお勧めしない。精製のプロセスで栄養的に空っぽだし、細胞内で代謝されるときにビタミンやミネラルが消耗する。急激に血糖値が上昇して、内分泌系に負担がかかる。
同じとるなら、黒砂糖とか蜂蜜にすればいい。それだと、まだしも白砂糖ほどの負担はかからないだろう。
というか、ミカンとかリンゴとか、季節の果物のほうがいいし、あるいは、甘酒。あるいは、サツマイモ。すごい甘くて、ぺちゃっとした、お菓子みたいなサツマイモあるやん。ああいうので甘いもの欲求を満たせるなら、そっちのほうがいい。

小麦については、この『小麦は食べるな』が不朽の名著です。なぜ小麦がダメなのか、簡潔にして必要十分な説得力を備えたこの本以上のものは、今後出てこないと思う。
なぜ小麦がダメなのか、以前の記事でも書いたことがあるけど、
https://note.com/nakamuraclinic/n/n0f54a8d44a9c
これは、製粉所に勤務する社員目線での『小麦有害論』だった。
しかし上記著者の説明は、かなり趣が違います。
実は著者自身がグルテン不耐症で、そこらへんで売ってるパンを食べると頭にモヤがかかって物が考えられなくなる。
著者は、ある実験をしました。

有機無農薬のパンコムギという品種(現代の小麦といえば99%がこれ)の小麦粉を買ってきて、これを使って自分でパンを作る。
さらに、スペルトコムギ(100年前のヨーロッパ人が食べてたような小麦の原種)の小麦粉を買ってきて、やはり、パンを作る。
それぞれを食べて、体感の変化を見てみる。すると、パンコムギで作ったパンを食べると、例のブレインフォッグの症状が出た。有機無農薬でも意味がなかった。パンコムギという品種自体が、もうダメだったということです。
しかし、スペルトコムギの小麦粉で作ったパンは、体調に何も影響が出なかった。
ということは、著者は、正確な意味では、グルテン不耐症ではなかったということです。だって、スペルトコムギにもグルテンは含まれているはずだから。パンコムギに含まれる何らかの成分に対する不耐症だったということだ。
これは、かなり多くの人に当てはまるんじゃないかな。「小麦をやめたら、それだけで体調がすごくよくなりました」みたいな患者はたくさんいて、それはそれで結構なことだけど、別に小麦をやめる必要はなかったのかもしれない。スペルト小麦のパンとか麺だったら、食べても問題なかったかもしれない。ただし、スペルト小麦はちょっとお高いけどね(笑)

「乳製品は体によくない」というけれど、これ、僕の理解では、現代の牛の飼育環境に問題があると考えていました。
もともと牛のミルクというのは、当然ながら子牛が飲むためのものであって、人間様が飲むものではない。だから、赤ちゃん牛がある程度成長したら、母牛はミルクを出さなくなる。しかしこれでは酪農業が成り立たない。そこで、ホルモン剤を投与して、母牛の内分泌系をバグらせて、ずっとミルクが出るようにする。不自然なことをしているから、当然母牛は乳腺炎とかいろいろな病気になる。そこで抗生剤を投与したり、ワクチンを注射したり、変な薬を投与することになる。しかも、食べてるご飯は遺伝子組み換えの飼料で、しかも「栄養バランス」の名目で肉骨粉が入ってたりする。牛同士で共食いしてる格好だ。牧場をのそのそ歩きまわって、青々とした牧草を食べるなんてもんじゃない。狭いケージに閉じ込められて移動の自由もない。
ホルモン剤、抗生剤、ワクチン、遺伝子組み換えの飼料、劣悪な飼育環境。
こんな牛の血液は汚れている。ミルクというのは、血液が乳腺細胞で濾過されたものだから、ミルクも汚れている。こんなミルクを飲んで、体にいいわけがない。
僕はそういう意味で、「牛乳や乳製品は体に悪いよ」と言っていました。
逆に言うと、そういう環境ではない牛のミルクであれば大丈夫だとも思っていました。

最近、患者から一冊の本を勧められました。『酵素の力』。
この本を読んで、僕の臨床は変わりました。生のもの(サラダとか生の野菜、新鮮な果物、生の肉、刺身など)がいかに健康に大事か、よく分かった。
人類は、だいたい500万年ぐらい前にサルから進化して、アフリカで発生したと言われてる(多分嘘)だけど、当時の人間が何を食べてたかというと、基本的に生肉ばかり食べていた。集団で狩りをして、ナウマン象とか捕まえて、その肉をみんなでシェアして食べていた。そんな具合に数百万年の間、生肉を食べ続けてたところ、50万年ほど前に北京原人が火を使い始めた。火のおかげで、まず、食事が圧倒的においしくなった。これは、みなさん、すぐに想像がつくでしょう。生米なんて食べれたもんじゃないけど、炊いたお米はおいしい。玉ねぎとか、生だと辛いけど、火をいれると甘味が出ておいしい。
さらに、火を入れることによって、食材の保存性が高まりました。たとえば、生肉は放っておいたらすぐに腐ってしまう。生肉には、酵素が含まれていて、そのせいで肉が自壊してしまう。酵素が自分自身を溶かしてしまうわけです。しかし、加熱によって酵素が失活するから、火を入れた肉は腐りにくい。
つまり、火を使うことで、食事がおいしくなり、しかも保存がきくようになった。このおかげで、食文化の多様性が飛躍的に高まったわけです。
しかし、加熱にはデメリットもあって、それは、まず、ビタミンや酵素が壊れてしまうことです。これまで、生の野菜や果物、生の肉のおかげでビタミンや酵素をたっぷり摂取できていたところ、それができなくなった。
先ほども言ったように、生ものというのは、それ自身の酵素により自壊するので、消化吸収の負担はほとんどないのですが、火によって保存性が高まったのと裏腹の現象として、加熱した食材は消化が大変なのです。人間のほうで頑張って消化酵素を産生し、それでようやく消化吸収できるという格好です。
こんな具合に、火の使用は、人間にメリットとデメリットの両方をもたらしました。
さて、現代人のみなさんは、ご自身のテーブルを見て、どうですか。火を入れたものばかりではないですか。そう、現代人は加熱した食材が多すぎ、生のもの、酵素を含むものが少なすぎる。つまり、「現代人の疾患の大半は、加熱食の食べすぎ、あるいは、酵素の摂取量が少なすぎることから来ている」というのが、上記著者の主張です。
前置きが長くなりました。上記著書のなかに、「生乳健康法」が紹介されている。非加熱の牛乳を飲むことで様々な疾患が改善するし、逆に、加熱殺菌した牛乳だと様々な体調不良が出てくるという。
「赤ちゃんは粉ミルクより母乳のほうがいい」という考えがあって、これについて栄養学者は、粉ミルクと母乳の栄養成分を比較したりしてるけど、それよりなにより、酵素の有無、これこそが決定的な違いだと著者は言います。
たとえば、生牛乳と殺菌牛乳を飲んだ生後4か月から4歳までの子供40人を対象とした研究で、精製炭水化物の多い食事をしていたにもかかわらず、生牛乳を飲んでいた子供では虫歯が一人もいなかった。
ライプツィヒ大学の研究で、6人の未熟児に16日間生乳を与えると順調に成長したが、100度で15分間加熱したミルクでは成長低下、下痢、鼻やのどのカタル(粘膜炎症)が見られた。
著者(ハウエル氏)の観察によると、生牛乳療法を実施した患者では、大腸炎、皮膚炎が改善したが、殺菌牛乳では鼻やのどがつまるなどの症状が出て、疾患の改善効果はなかった。
OkadaとSanoの実験によると、ネズミの飼育に際して、生牛乳を飲ませるグループ、加熱した牛乳を飲ませるグループ(60度、80度、100度、120度、140度でそれぞれ30分加熱。それぞれ10匹ずつ)という具合に、6個のグループに分けて7週間観察すると、
生乳群は7週間普通に生存し、60度加熱群は全匹生存したものの生乳群より体重が60%軽く、80度加熱群は3週間で全匹死亡し、100度加熱群は2週で全滅、120度加熱群は1週間で全滅、140度加熱群は3~5日で全匹死亡した。
こんな研究がたくさん紹介されてて、むちゃくちゃに説得力のある本だった。
これを読んで、僕は確信しました。
「牛乳が体に悪いのではない。加熱した牛乳が体に悪いのだ」と。
ただし、牛乳は日本国内において加熱殺菌が義務付けられているので、生の牛乳を販売している牧場は国内に1か所しかありません。そこらへんのスーパーでは非加熱の牛乳は手に入らないので、生牛乳健康法は実践できません。
だいたいにおいて、食材に罪はありません。小麦も牛乳も本来、毒ではない。しかし、妙な品種改良をしたり妙な加工をしたり、そのせいで「毒」になってしまう。結局のところ、不自然なことをしている報いを、そのまま受けているだけのことなんです。