元素転換の講演会

5月31日横浜でヴィソツキー博士の講演を聞いた。

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ウクライナ訛りの強い英語で、3割ほどしか聞き取れませんでした(笑)

ウラジミール・ヴィソツキー博士はもともとはキエフ大学で放射線物理学を専攻していたけれども、1989年フライシュマンとポンズによる常温核融合の発見に刺激を受けて、それ以来、独自に研究を進めた。1996年微生物による元素転換に関する論文を初めて公表し、その後も画期的な研究を続けている。

18世紀にラボアジエが「質量保存の法則」を唱え、それを受けてドルトンが「原子説」を提唱して以後、現代科学では元素転換はあり得ないとされている(ただし放射線崩壊による核変換は例外)。
その「あり得ない」とされる現象について、様々な事例を突き付けて「原子説」の牙城に挑み続けたのがルイ・ケルブラン(1901~1983)であり、その系譜を現代に受け継ぐのが、今、僕の目の前にいるヴィソツキー博士である。
ケルブランの元素転換については、すでに過去記事で何度も取り上げてきた。
https://clnakamura.com/blog/1743/
https://clnakamura.com/blog/5471/
https://clnakamura.com/blog/5480/
https://note.com/nakamuraclinic/n/n2d72181ce828
https://note.com/nakamuraclinic/n/nbd0c7049f732

改めて、ヴィソツキー博士の仕事を簡単に紹介しよう。

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ディノコッカス・ラジオデュランスという細菌がいる。radioは放射線、duransは耐性の意味だから、放射線耐性菌という意味で、実際、この細菌は缶詰を放射線で滅菌したあとでも生き残った細菌として単離された。
この菌の放射線耐性はすさまじく、7000 Gy(グレイ)という地上では存在しないほどの線量にも耐えられる(ちなみに人の半致死線量は5 Gy)。
この菌を、マンガン(Mn55)と重水素(d2)を含む培養基におくと、鉄(Fe57)を生成した。

微生物は常に環境への適応のことを考えているもので、この菌としては、マンガンの過剰をストレスに感じている。そこで、マンガンを鉄に変えることで外的な酸化ストレスを軽減しようとする(金属ホメオスタシス)。つまり、菌としては、適応反応の副産物として鉄を生じたに過ぎない。
しかし僕は医者なので、この現象を臨床に応用できないか、ということを考えます。たとえば、鉄欠乏性貧血の患者がいるとして、鉄剤ではなく、マンガンを投与すればどうなるか。腸内細菌がマンガンから鉄を作るとすれば、マンガンの投与によっても鉄欠乏性貧血が改善するのではないか。
最近の論文で、マンガンの血中濃度と貧血の発生率にはU字型の相関があるとのことで、何かしらの関連はありそうです。

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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39977843/
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バチルス・サブティリス(Bacillus Subtilis)という菌は、干し草のなかから見つかった枯草菌で、納豆菌もこの仲間です。この菌をナトリウム(Na23)とリン(P31)を含む培養基にいれると、鉄(Fe54)を生成する元素転換を行うことが確認されました。
同様の結果は、アゾトバクター・クロコッカム(Azotobacter Chroococcum)を使った実験でも確認されました。

これも、菌にとって、適応的な意味があるはずです。
アゾトバクターは、いわゆる根粒菌で、空気中の窒素からアンモニアを作る窒素固定細菌であることは、高校の生物でも習います。連作が続いて疲弊した畑を休ませるときに、レンゲやクローバーなどのマメ科植物を植える。すると、その根に付着する根粒菌が、空気中の窒素からアンモニアを作り、それが土を肥沃にする。農家が当たり前にやっていることです。
この現象をもう少し詳しく見ると、窒素からアンモニアを作る際、ニトロゲナーゼが作用するんだけど、この酵素は鉄がないと活性を持たない。だから、細菌がナトリウムとリンから鉄を生成することは、適応的に理にかなっているわけです。

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サッカロミケス・セレヴィシエといえば酵母菌で、パン、ビール、日本酒など、僕らの生活に身近な菌ですが、これをセシウムを含む培養基にいれると、バリウムを生成する元素転換が起こることが証明されました。
この研究が画期的なのは、まず、ひとつには、細菌類だけではなく、酵母菌も元素転換を行っていることが分かったことです。
「細菌も酵母もどっちもバイキン。同じようなもんだろう」と思うかもしれなけど、生物学的にみると両者はまったくの別ものです。細菌は原核生物であり、酵母は真核生物で、細胞構造も分裂の仕方もまったく違います。

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ちなみに、古細菌であるメタン菌もCs→Baの元素転換を行う

系統のまったく違う生物種が、元素転換という同じ現象を起こしている事実は、元素転換が微生物に普遍的であり、生存に極めて重要である可能性を示唆しています。
もうひとつ、この実験が意味する重要なところは、放射性セシウムの分解に微生物を利用できる可能性を示しているところです。
可能性というか、すでに琉球大学の比嘉照夫先生が、福島の原発事故による放射能汚染に対して、EM菌を散布することで一定の成果をあげています。

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https://www.ecopure.info/series/emshibata0203-emtaisaku/

EM菌というのは、ごく簡単にいうと、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌など、いわゆる善玉菌のちゃんぽんエキスのことで、僕も患者によく勧めます。お風呂にいれると黒カビが生えにくいし、家庭菜園にまくと土壌改善になって植物が元気になるし、適量飲むと健康にもいい。

ヴィソツキー博士は、EM菌という言葉は使わないけれど、実質、ほぼEM菌のような複数の菌種の混合物を使って、その有効性を研究しています。

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セシウムの半減期の30年である。つまり、放射能汚染された地域を放置するとして、30年経ってようやく、セシウムの量が半分になる。放射能汚染地域から一時的に避難したとしても、これでは故郷に帰ることはできない。
そこで、汚染地域に除染として積極的にMCTを散布したとする。MCTを使えば、30日ぐらいでセシウムが半減する。放射能汚染地域にとって、救世主というべきだろう。

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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