アンパンマン

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アンパンマンミュージアムにて

3歳の我が子(こうちゃん)は、生まれたときから『アンパンマン』のファンと言っても過言ではない。服、靴、絵本、フィギュアなど、『アンパンマン』のキャラクターが描かれたものを好んで利用するし、毎日のようにアンパンマンミュージアムに行きたがるし、僕はこうちゃんの拳から繰り出される「アンパンチ!」を受けない日はない(笑)
家はアンパンマングッズにあふれていて、こうちゃんのみならず我が家に足を踏み入れた人は皆、『アンパンマン』の空気を呼吸することを避けられないだろう(笑)
このアンパンマンへの熱狂はいつまで続くのだろうか。聞くところによれば、一般的な経過として、5~6歳で徐々に熱が冷めていき、小学校に行く頃になると、アンパンマンに夢中になることをむしろ恥じるようになり、ポケモンとか戦隊ものに興味が移っていく子供が多いという。こうちゃんがどうなるか、分からない。
僕としては、そばでこうちゃんの変化を見守るだけだ。
アンパンミュージアムは、神戸にも横浜にもあって、どちらにも複数回行ったことがある。いつ行っても、子供たちとその保護者で大混雑だ。『アンパンマン』がいかに多くの子供たちに支持されているか。それは僕がここで説明するまでもないだろう。

この魅力的な『アンパンマン』を作ったやなせたかし氏は、一体どういう人物なのか。NHKの朝ドラで、作者やなせたかしの一生がフォーカスされている。

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ドラマは現在も放送中で、僕はドラマを見てないけれども、やなせ氏は戦争経験者なんですね。日中戦争で中国に出征した経験があるし、やなせ氏の弟は戦地に向かう際に輸送船を撃沈されて戦死している。
つらい戦争経験と、その揺り戻しから来る戦後の強烈な反戦の空気の中で、やなせ氏は「正義とは何か?」と深く考えるようになった。その結果、ひとつの結論として、「正義とは、戦地に赴いて敵と戦うことではない。敵国にミサイルを撃ち込むことが正義ではないし、国家を転覆させようとして大きなことを企てることが正義ではない。正義とは、困っている人を助けることです。ひもじい思いをしている人にパンのひときれを差し出す行為を、正義と呼びます」
こうして1969年、異色のヒーローとしてアンパンマンが誕生した。

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ちなみに、初出の本では、アンパンマンは八頭身で手足も長かった。一人称は「おれ」で、性格はニヒル。現在の姿とは、まったくの別ものでした。

やなせ氏は聖公会のクリスチャン(洗礼名はバルトロマイ)だったという話がある。『アンパンマン』にもキリスト教の世界観が色濃く反映されているという。
ジャムおじさんは神様で、神様が自分に似せて人間を作ったように、ジャムおじさんも自分に似せてアンパンマンを作った。

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確かに、ヒゲとか細部を取り払ってみると、ジャムおじさんとアンパンマンはほとんど同じ顔をしている。
アンパンマンはイエス・キリストの似姿で、イエスが「これは私の体です」と言ってパンを与えたように、アンパンマンもおなかをすかせた人に自らの顔を与え、食べさせる。
最初の『アンパンマン』では、アンパンチが象徴する「暴力による正義の実現」は存在しなかった。アンパンマンの姿はイエス・キリストそのもので、「自己犠牲を伴う愛による正義の実現」こそが本来のテーマだった。

しかしやなせ氏自身は、ある雑誌のインタビューで「ぼくには宗教心というのは全くない。恐らくこれからも宗教に頼ることはないでしょう」「宗教を認めながら、神を崇拝しながら、宗教心がないのです」と語っていて、『アンパンマン』をあまり宗教的に解釈されることを望んでいないようだ。

当初は宗教的な理念があったのかもしれない。でもそれに縛られると、どうしても作品の幅が狭くなってしまう。アニメで毎週放送するとなれば、アンパンチのような決め技としての「正義の鉄槌」を出さざるを得なくなったのかなと想像します。
すでにやなせ氏は故人で、アンパンマンの新しい作画などは別の人が担当している。このあたりは長谷川町子の『サザエさん』や藤子不二雄の『ドラえもん』も同じ事情でしょう。子供に飽きられないよう、かつ、アンパンマンワールドの世界観を壊さないよう、新しいネタを作るのは相当大変だろうと思います。

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『アンパンマンミュージアム』に連れて行ったり、こうちゃんが夢中になって見ているアンパンマンの動画を横から見たりしているうちに、僕もアンパンマンに詳しくなりました(笑)

アンパンマンを見るようになって意外だったのは、バイキンマンの健気さです。
バイキンマンには『世界征服』という大きな夢があるが、常にアンパンマンに阻まれる。必然的に「打倒アンパンマン」が目標となり、日夜研究に励んでいる。

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研究?そう、バイキンマンは非常に熱心なエンジニアで、もぐりん、フランケンロボ、だだんだんなど、数多くのロボットを生み出してきた。
しかしアンパンマンは、理系はからっきしダメなようで、自らの創意工夫はありません。いつも腕力に物言わせてバイキンマンを殴るだけです。
アンパンマンは何不自由なく生活している。食べ物はジャムおじさんやバタコさんが用意するから困らないし、毎日あたたかいベッドで眠っている。一方、バイキンマンの生活環境はハードです。食べ物も育たないような崖の上で、大量のカビルンルンを養いながら生活している。アンパンマンのニートのような生活ぶりと好対照をなしています。
アンパンマンには何も夢がない。あえて言えば「みんな仲良くね!」と平和を訴えるだけ。「世界征服」という夢に向かって進むバイキンマンに対して、「やめるんだ!」と阻止するだけ。
バイキンマンはよく笑う。いたずらをして楽しそうだ。
一方、アンパンマンは怒ってばかり。自分の夢がなく、人の夢を阻止することでしか自己表現できず、いつも苛立っている。ツイッターにアンチコメントを書き込んで正義ヅラしてるニートに通じるものを感じます。
バイキンマンは努力家で苦労人。何回殴られてもへこたれないレジリエンスがあり、いつも笑顔といたずら心を忘れない。一方、アンパンマンは常にその逆。

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という具合に、正義と悪の対立となれば、悪のほうが案外魅力的だったりする(笑)
これは、シリーズ化したヒーローものアニメがたどる必然の道で、『アンパンマン』も同じ構図にならざるを得ないということだろう。

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一番左側にいるのがバイキン仙人

バイキン仙人、なんてキャラは、やなせ先生の発想からは出てこない。バイキンマンの師匠のような立ち位置で、バイキンマンを特訓したり知恵を与えたりする。温泉で入浴するとか、もはやバイキンではなくなってるのでは?(笑)

アニメには出てこない裏の設定だけれども、アンパンマンとバイキンマン、実は「仲がいい」という説がある。
これは当然そうだろう。
アンパンマンのパン生地を作るとき、発酵にはバイキンが欠かせない。ライバル関係のように見えて、実際のところは、バイキンマンはある意味アンパンマンの生みの親だったということだ。

それから、バイキンマンの夢は「世界征服」というけれど、この夢はすでに叶っている。
生態系ピラミッドは、肉食動物を頂点として、以下、草食動物、小動物、植物、菌類から構成され、バイキンマンは最下層に位置しているようだけれども、本当の意味で世界を支配しているのは菌類です。
僕ら生あるものはすべて、いつか必ず菌類の支配に膝を屈し、この世から消えていきます。分解者であるバイキンマンこそ、世界最強の生物であり、すでに彼の世界支配は完了しています。

ともかく、こんなふうにひねくれた鑑賞をするのが、大人になるということです(笑)
こうちゃんが、どれほど胸を高鳴らせてアンパンマンを見ていることか。そんなふうに純粋無垢に楽しんでいるこうちゃんを見ることが、僕には一番の楽しみなんです。

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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