マグネシウムとうつ病

患者には何らかの苦しい症状があって、それをどうにかして欲しい、という希望があって当院に来られる。そして僕は、それをどうにかしようと頑張る。
患者の話を聞いてすぐに”当たり”がつくこともあれば、そうでないこともある。すぐに原因が分かれば、対処も早い。不調の原因を除去し、補うべき栄養素を勧めたりする。これで、だいたいうまくいく。
しかし症状が複雑で、原因がいまいち見えないこともけっこうある。あれやこれや、いろいろサプリを試してもなかなか改善の兆しが見えない。患者もつらいが、僕もつらい。
以下の症例は、僕がふがいないばかりに、苦痛をずいぶん長引かせてしまった患者である。苦い記憶ではあるが、自戒をこめて供覧しよう。

【症例】40代女性
【主訴】不安、抑うつ、耳鳴り、子宮内膜症、PMS(月経前のイライラ)
2019年6月19日当院初診。
「いろいろ不調があるのですが、今一番きついのは不安感です。不安感っていうと、「感」だから、感じているだけで、心のなかだけの話かと思われるかもしれませんが、そうじゃありません。心臓がふわふわと浮くような感じがして、変な動悸がするかと思えば、脈が(この前数えたのですが)46回ぐらいしかなかったり。あと、脈が1、2回とんでるようにも思います。
生理前にはPMSがひどくなります。イライラしたり、あるいは逆に、抑うつでふさぎ込んだり。イライラしているときは、道行く人を殴りたいような衝動を感じます。
うつっぽくなるときは、死にたいとさえ思っています。自分は生きてる価値ないな、私の存在は子供にとって害になるだろう、って気分になって、自己嫌悪に陥ります」

医者は誰しもそうだろうけど、患者の話を聞きながら、常に鑑別を考えている。話をここまで聞いた時点で一番疑わしいと思ったのは、マグネシウム不足である。しかし続けて話を聞いていると、
「先生のブログとか読んで、自分なりにサプリを試しています。ビタミンC、ナイアシン、マグネシウムなんかを飲んでいます」
ああ、なんだ。もう飲んでるのか。
鑑別からあっさりマグネシウム不足を除外してしまった。この早とちりのために、その後の治療が迷走し、患者は長く苦しむことになった。

普通、マグネシウム不足は採血ではわからない。血液とは”内なる海”であり、体は海の組成を一定に保とうとする。組織内部のマグネシウムを犠牲にしたとしても、血液中のマグネシウムだけは保とうとするから、採血でマグネシウムが低いとなれば、よほどのことである(利尿薬など薬剤性にマグネシウムが消耗している場合など)。そうでなければ、マグネシウム不足は通常わからない。

「マグネシウムサプリはすでに飲んでいます」
そう言われても、そこで引っ込むのではなく、もっと突っ込むべきだった。
「マグネシウム、どういう形で何グラム摂っていますか?錠剤ですか?液体ですか?
錠剤ならば、タイプは?グリシン酸マグネシウム?リンゴ酸マグネシウム?クエン酸マグネシウム?
液体なら、にがりも併用してますか?家で使ってる塩は天然塩ですか?塩化ナトリウムみたいな精製塩を使っていませんか?ちゃんとした天然塩なら、しっかり摂ってもらっていいですからね。マスコミに踊らされて減塩なんてしちゃダメですよ。
風呂にエプソムソルト(硫酸マグネシウム)を入れていますか?硫酸マグネシウムは経皮吸収されますからね。楽天とかアマゾンでお徳用のエプソムソルトが安く買えるので、それをお風呂にドドンとぜいたくに入れて下さい。さらに、風呂上りにマグネシウムオイルでマッサージするのもいいです。
あと、今何か薬を飲んでいませんか?抗うつ薬や頭痛薬のなかには、分子構造にフッ素を含むものがあります。フッ素は体内のマグネシウムを消耗させます。つまり、薬が症状を抑えるのは一時的で、根本的な治癒は、薬によってむしろ遠ざかる可能性があるので、注意してくださいね」
今ならこんな具合に、しつこく聞く。”マグネシウムを軽視する診察はありえない”。今はそれぐらいに思っているけど、当時は僕も認識が甘かった。

数か月おきに来院されるこの患者に対して、マグネシウムという急所をはずしながら、様々なビタミン、ミネラル、ハーブを試すことになった。症状は、一進一退。しかしマグネシウムの高用量摂取(「この液体のマグネシウム、しっかり飲んでね。味は超絶まずいけど」)を勧めてから、激変した。
2020年12月1日受診時。
「よくなりました。よくなったことで、逆に、今までの自分がどれだけひどかったか、というのが分かります。自分が存在するだけで家族に迷惑じゃないか、いっそ死んだ方がいいのではないか、という思いにとらわれていました。いっそ死んで、あの世から守護霊として子供たちを守ってあげようか、みたいな。でも今はそんなこと考えません。ほら、自殺したら、守護霊みたいな上等なものにはなれなくて、地獄をさまようって言うじゃないですか。だから死ぬのはやめとこうって(笑)
長かったです。亜鉛がいいって言われて飲みましたけど、別にPMSに効いてる感じしなくて、あいかわらずイライラが続いて。ただ、チェストベリーは効きました。もう、めちゃめちゃに効きました。ただ、効果を実感したんですが、同時にひどい吐き気もあったんですね。でもこのハーブはすごいって思ったから、吐いてでも飲みました。吐き気の不快さよりも、PMSが楽になるのがうれしかったんです。道行く人を殴りたいような衝動から、ようやく解放されました。
でも抑うつや不安感までは治らなくて。まさかマグネシウムが鍵だったとは、私も盲点でした。だってすでに飲んでいましたから。100㎎のサプリを1錠だけ。それじゃ全然足りなかったってことですね。
液体のマグネシウムをしっかり飲むようになってから、気持ちがようやく落ち着きました。心臓がふわっとしてこのまま死ぬんじゃないかというような動悸もなくなりました。マグネシウムには救われました。ただ、味は本当にひどいです(笑)」

>中村篤史について

中村篤史について

たいていの病気は、「不足」か「過剰」によって起こります。 前者は栄養、運動、日光、愛情などの不足であり、後者は重金属、食品添加物、農薬、精製糖質、精白穀物などの過剰であることが多いです。 病気の症状に対して、薬を使えば一時的に改善するかもしれませんが、それは本当の意味での治癒ではありません。薬を飲み続けているうちにまた別の症状に悩まされることもあります。 頭痛に鎮痛薬、不眠に睡眠薬、統合失調症に抗精神病薬…どの薬もその場しのぎに過ぎません。 投薬一辺倒の医学に失望しているときに、栄養療法に出会いました。 根本的な治療を求める人の助けになれれば、と思います。 勤務医を経て2018年4月に神戸市中央区にて、内科・心療内科・精神科・オーソモレキュラー療法を行う「ナカムラクリニック」を開業。

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